【第25回】
古典から再発見、半夏厚朴湯
誤嚥性肺炎(1)
高齢者にとって、肺炎は命とりにもなる怖い病気。というので、たいていの人が風邪に用心する。しかし、肺炎の原因は風邪ばかりではない。高血圧などで脳に小さな梗塞(こうそく)が次第に増えてくると、食べ物や飲み物でむせることが多くなってくる。これは、のみ込み(嚥下=えんか)の機能が衰えて、本来食道から胃に入るはずの飲食物が気管の方に入ってしまうからだ。
ひどくなると、むせることさえなく、肺に食べ物や唾液(だえき)が入ってしまう。その結果、肺で細菌が増殖して起こるのが、誤嚥(ごえん)性肺炎だ。肺炎は高齢者の死因の第4位を占めているが、そのほとんどがこの誤嚥性肺炎だろうと言われている。高齢者には一番怖い病気のひとつなのである。
東北大老年呼吸器内科(佐々木英忠教授)は、早くからこの病気に注目してきた。先進漢方治療医学寄付講座(漢方内科)の岩崎鋼助教授によると「嚥下反射と咳(せき)反射が同時に障害されると誤嚥性肺炎が起きやすくなる」という。のみ込みと誤って気管に入った異物を吐き出す咳反射がともに障害されると、誤嚥性肺炎が起こりやすくなるのだ。
そこで、あらゆる薬からこうした機能を高めるものが探索された。このとき、佐々木教授に漢方薬にはのみ込みや咳反射を改善する薬はないのかと尋ねられ、岩崎助教授の頭にひらめいたのが古典の一節だった。
「『金匱要略(きんきようりゃく)』という2000年ほど前の漢方の本に、女の人があぶった肉の塊がのどにつかえて困るときには、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)をのみなさいという記述があるのです」。まるで判じ物のような解説で、従来は「心因性にのどの閉塞感を感じる病態」と理解されていたという。これは、更年期障害などでもよくみられる症状だ。そこで、自律神経失調症やうつ傾向のある人がのどに違和感を訴える場合に、精神安定剤的に半夏厚朴湯が使われてきた。
しかし、記述通りに読めば、のどに食べ物が詰まって困る時に使えと書いてある。これが、半夏厚朴湯の再発見につながったのである。
【ジャーナリスト 祢津加奈子】
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