【第32回】
「心」「肝」「腎」という概念に従い使い分け
痴呆の治療(4)
8週間にわたる臨床試験の結果、八味地黄丸(はちみじおうがん)は痴呆患者の認知レベルを高め、日常生活動作を驚くほど改善することが分かった。
「今後の課題は、効果がどのくらい持続するかです」と東北大先進漢方治療医学寄付講座(漢方内科)の岩崎鋼助教授は語っている。今、その追跡調査を行っているところだ。
この八味地黄丸をはじめ、漢方薬では釣藤散(ちょうとうさん)や加味温胆湯(かみうんたんとう)など、痴呆治療に期待できる漢方薬がいくつも見つかっている。その使い分けも問題になってきた。「西洋医学的な手法で効果を確かめてきましたが、現段階での使い分けは漢方的な考え方に従うのが良いと思います」と岩崎助教授は語っている。
脳の働きを(1)睡眠・覚醒のリズムなど意識レベルの調整(2)感情や自律神経のコントロール(3)全体としての機能を統合する高次脳機能に分けてみると、漢方ではそれぞれ「心」「肝」「腎」という概念に当てはまるのだそうだ。これは、西洋医学の臓器の概念とは異なる漢方独自の考え方だ。例えば西洋医学の腎臓は尿を作る臓器だが、漢方でいう「腎」は生殖機能などにも関係し、生命活動の根源的なエネルギー、ないしは遺伝情報といった意味合いになる。
意識レベルを調整するのは「心」の働きだ。これが低下すると、集中力が低下し、すぐに眠ってしまう。空回りをすると、不安や焦燥感になる。「こうしたタイプの痴呆に向くのが加味温胆湯」と岩崎助教授。
「肝」の機能が低下すると、感情のコントロールがうまく行かなくなり、怒りっぽく、興奮しやすい、意識が混迷したり、不穏な状況になる。このタイプに向くのが釣藤散だ。
そして、高次脳機能の保持に働くのが「腎」。これが低下すると、痴呆が進むのだそうだ。これに向くのが八味地黄丸なのである。
「これをケースに応じて使い分けるのがいいのでは」と岩崎助教授。いずれ、こうした漢方の概念も現代医学的に解明される時が来るかもしれない。
【ジャーナリスト 祢津加奈子】
|