【第67回】
総合的に気道をきれいに
治りにくいセキ(4)
熊本大薬学部の宮田健教授の長年の研究によって、麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、セキを抑える生薬とその働きを抑える生薬を配合することによって、ほどほどにセキを止める。つまり、タンなどの排出に必要なセキは残して余分な空ゼキを止めることが分かってきた。
しかし、麦門冬湯の作用はセキを止めるだけではないのである。私たちは呼吸するだけで、常に異物を吸い込んでいる。こういう異物は、自然に肺からのどの方にくみ上げられて、無意識のうちにのみ込まれ、胃で消化されている。肺を無菌状態に保つための重要な作用だ。こういう働きも、麦門冬湯が高めてくれることが分かった。
さらに、異常な粘液の分泌を抑えてしつこく硬いタンが絡むのを防ぎ、タンを口の方に運ぶ線毛の働きを高めてくれる。「ここ20年ほどの間に、肺の表面をきれいに洗浄するもの(肺表面活性物質)があることが分かったのですが、麦門冬湯はその分泌を高めること、またのどの平滑筋の過敏な収縮を防ぎ、肺を膨らませる機能にも作用するなど、さまざまな働きを持つことが分かってきました」。
胎児の肺はペチャンコだが、生まれ落ちると同時に膨らんで肺呼吸が始まる。このときにも、麦門冬湯がいい方向に作用するのである。炎症を起こすタンパク分解酵素の働きも抑える。「つまり、余分なセキを抑え、気管支を広げ、炎症をとって、タンを減らし、肺の洗浄液を出す。単なるセキ止めではなく、麦門冬湯は総合的に気道をきれいにする作用があるのです」と宮田教授は語る。
長くのんでも中枢には作用しないので依存性もないし、副作用などの問題がないのも利点だ。「亜硫酸ガスを吸わせて気管支炎にしたモルモットは、毛並みも悪くなるし、食欲も低下して体重が低下、運動もしなくなります。ところが、麦門冬湯をのませていると、元気になって体重も回復するのです」。
麦門冬湯は、薬が目指すべき方向までも示しているように思えるのである。
【ジャーナリスト 祢津加奈子】
|