【第70回】
腸内で競合、分解を阻止
抗がん剤の副作用・下痢(3)
塩酸イリノテカンという優れた抗がん剤の効果をより生かすには、下痢という副作用を何とかしなければならない。そこで、北海道大薬学部の鎌滝哲也教授が考えたのは、塩酸イリノテカンと漢方薬を腸の中で競争させることだった。
塩酸イリノテカンは、いったん肝臓でグルクロン酸がくっつき、無毒化される。これが、腸内細菌によって再び切り離されることで再び毒性を持ち、腸の粘膜を傷害して下痢を起こす。漢方薬の場合は、グルクロン酸が腸内細菌によって外されることで、吸収される形になる。つまり、意味は違っても、腸内細菌がグルクロン酸を外すという点は全く同じなのである。
ならば、漢方薬と塩酸イリノテカンを一緒に投与すれば、腸の中で競合するのではないか。つまり、腸内細菌の働きが分散されるのではないかと考えたのである。「漢方薬は天然物なので、より腸内細菌が好んでグルクロン酸を外すのではないかと考えました」と鎌滝教授。つまり、漢方薬の方に腸内細菌が集中し、塩酸イリノテカンの分解に手が回らなくなるはずと想定したのである。
そこで、漢方薬の生薬に含まれる純粋なグルクロン酸抱合体を入手。どのくらい塩酸イリノテカンのグルクロン酸抱合体が腸内細菌によって分解されるのを阻止するかをみた。その結果、「サッカリン酸1・4ラクトンは、実験的にグルクロン酸抱合体の分解を阻害する物質として知られています。ところが、生薬成分は、それと同等かそれ以上の強さで塩酸イリノテカンのグルクロン酸抱合体が分解されるのを防いだのです」。
思った以上に、グルクロン酸抱合体の分解を阻止する力が強かったのである。つまり、塩酸イリノテカンが毒性を持ち、腸で悪さをするのを防ぐことが分かったのである。こうした生薬成分の中で、最も効果が高かったのがバイカリンだった。そこで、「バイカリンを多く含み、かつ古来下痢に使われてきた漢方薬は何か」と調べた結果、浮上したのが半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)だったのである。
【ジャーナリスト 祢津加奈子】
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