【番外編】
五感駆使、原始的だが奇跡的効果も
漢方の診察と証
漢方というと、効く人には効くけれど、効かないこともある。つまり、西洋薬に比べて効果が一定しないといった印象も持つ人も多いはず。漢方の専門家によると、この効くか効かないかを左右するのが「証」、つまり漢方的診断だという。ところが、漢方の診察法は独特で、なかなか理解しにくい。
診察の基本は、望診、聞診、問診、切診の4つ。問診は、西洋医学の問診と似ているが、望診は、目で見て行う診察で、体格や顔色、皮膚の色つや、舌の状態などを診る。聞診は聴覚と嗅覚(きゅうかく)を駆使して行う診察で、声の大きさや強さ、口臭や体臭などを診る。そして、脈の強さや調子、おなかの張りや圧痛の有無などを診るのが切診だ。
つまり、五感のすべてを駆使して患者の状態を診察する。その診察結果から「証」が決まり、これが漢方薬を決める処方指針になる。一見、原始的な診察法と見られがちだし、習熟するには時間もかかる。しかし、この「証」が西洋医学でもてこずるような難病などで奇跡的な効果をあげるポイントになるという。
例えば、あるベテラン医師がこんな話をしてくれた。患者は28歳で、ほとんど頭髪がないほど重症の円形脱毛症。皮膚科の治療では治らず、漢方治療を求めたのだが、特に証らしいものがない。困った医師は、証と無関係にこの病気によく使われる漢方薬を出したそうだ。しかし、全く効果はなく、いろいろな漢方薬を試してもダメ。1年たって医師の方が音を上げたが、患者は執拗(しつよう)に治療を求める。
ここで、医師はハッと気付いたそうだ。患者は、執拗な性格で熱しやすい傾向がある。そこで、頭に上った血を下げるような漢方薬を併用した。すると、3カ月で見違えるほど頭髪が生えたのである。「1年たって証が分かったのですから、お粗末な話」と医師は苦笑していたが、証が合うとはこういうことなのである。
今、個々の漢方薬の働きが少しずつ解明され、その知恵に驚かされることが多い。とすると、漢方的な証にも、まだ私たちが知らない知恵が隠されている可能性も大きい。漢方の診察法や証が意味するところが明らかになれば、病気の見方にも新しい視点が生まれるかもしれないのだ。
【ジャーナリスト 祢津加奈子】
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