【第168回】
全層からパーツに
角膜再生医療
目の最も前面にある角膜。この角膜が混濁して角膜移植の道しかない場合、角膜3層(上皮、実質、内皮)すべてを移植する「全層角膜移植」のほか、上皮と実質だけを移植する「表層角膜移植」や「深層角膜移植」が行われてきた。
角膜移植を行っても長期の効果が期待できない目の疾患、重症の化学外傷とスチーブンス・ジョンソン症候群などには、すでに「角膜上皮の再生移植」も、行われている。「これらの目の疾患は、実際には一種の角膜上皮のステムセル障害だったのです」と、慶応義塾大学病院(東京都新宿区)眼科の坪田一男教授(50)は言う。
ステムセルとは幹細胞。細胞の“種”。血液の“種”が骨髄細胞であるように、ステムセルは体の至るところに存在している。角膜上皮のステムセルは黒目と白目の間のリング状にあり、ここが障害されると角膜移植をしても効果が短いのである。坪田教授らは、角膜上皮のステムセルを培養して移植している。
角膜の拒絶反応はコントロールは十分可能だが、ステムセルの拒絶反応は強い。「赤ちゃんを包んでいる羊膜を使います」。まず、患者の目にステムセルが残っている場合は、それを採取する。ステムセルが残っていない場合は、近親者やドナーのステムセルを用いる。羊膜上にこのステムセルをのせ培養して、羊膜の角膜上皮シートをつくる。そして、患者の結膜化した上皮を除去し、そこに培養した上皮シートをのせ、目の表面を再建する。角膜実質部分に障害が及んでいる場合は、その後に角膜の全層移植を行う。
この角膜上皮の移植に、患者自身の口腔粘膜を用いる再生治療も行われている。「最新の角膜移植は上皮、実質、内皮と、障害された層のみを移植する『パーツ移植』に移りつつあります。内皮細胞も白内障の手術と同じ5ミリの切り口で移植しています。だから、1針しか縫いません」。
実質細胞と内皮細胞については再生が今のところできないので、アイバンクから提供を受ける。将来は万能のステムセルといわれる胚性肝細胞(ES細胞)で、患者に必要な臓器が作られることになる。「パーツ移植はその前段階といえます」と、坪田教授は語った。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
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