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本紙記者コラム「見た・聞いた・思った」
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2004/02/13 過去のコラム一覧へ

照れるけど一球入魂

野球部 久我悟記者

 西武のキャンプ地、宮崎・南郷町は宮崎空港から車で1時間強の距離にある。青島海岸を経て、少しある山道を抜けた。

 キャンプの1日は宿泊する南郷プリンスホテル前の砂浜を散歩することから始まる。赤田将吾外野手(23)は、集合の7時45分より少しだけ早く砂浜に出る。

 ゴミを拾うのだ。

 12日目を迎え、ついに「拾うゴミがなくなっちゃいました。いつまでもきれいな海だといいですね」と笑った。日南学園出身の彼には、日南海岸は思い出の場所だ。夏場の砂浜トレの終了後、あまりの暑さに監督の制止を振り切ってみんなで飛び込んだ。上京する前に最後に見た故郷の風景でもある。

 散歩の最後に今年の目標を叫ぶ順番が回ってきた。「6年目赤田将吾、今年も野球ができることに感謝して、レギュラーを狙います」。いつも笑顔で気のいい男が、初めて見せた硬派な決意だった。23歳にしてがけっぷちに立つ切迫感も感じられた。

 「野球やりたくてもやれなくなることだってありますから」。他球団を見れば同期入団や同年代の選手が何人も解雇されている。そう思った時、もう1度純粋な気持ちになった。

 同期の松坂とともに大器と期待された。1年目から1軍に抜てきもされたが、思うような成績が残せずに5年が過ぎた。「今年こそ」。これまでに、周囲も自分も何度こう言い聞かせただろう。「『今年こそ』っていうプレッシャーが邪魔になったのはありますね」。

 迎えた6年目。春季キャンプが故郷で行われるようになった。ゴミを拾うことと赤田の決意が無縁とは思えない。自分には余分な「今年こそ」を取り除き、目の前の1球に集中する。赤田が変わった。首脳陣の一致した意見だ。

 ロッテ鹿児島キャンプで取材した黒木知宏投手(30)も今年にかける1人だ。2年半前に右肩を痛めて以来、初めてキャンプで100球以上を投げると決めた日のことだ。誰より先にブルペンに入ると球数は119球に及んだ。コーチから注意を受ける。「本当は投球練習より守備練習が先だったんだぞ」。

 黒木は照れた。「つい、投げることに集中しちゃうんですよ。たくさん、忘れてたことを思い出すために投げたい」。ボールの感触や音、打者との距離感、本来の自分の姿。全力投球から遠ざかっている間に体が忘れてしまった数々を思い出すために。口にこそしなかったが、肩痛再発の恐怖を忘れるためにも、1球に集中する。黒木や赤田を見て、照れくさいけど好きだった「一球入魂」という言葉を思い出した。

 実は5年半前、秋ではあったが初めてプロ野球のキャンプ取材に訪れたのが、南郷町だった。守備も打撃も走塁も、すべての練習が新鮮だった。監督や選手の一言を聞くのに緊張した。あれほど、何かに無我夢中になったことは、あれ以来あっただろうか。慣れや惰性で生きていないか…。赤田ではないけれど、日南海岸で初心に戻る。

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久我悟(くが・さとる)
 野球部。編集局整理部、文化社会部を経て98年秋から野球部で西武、遊軍を担当。90年入社。36歳。国学大卒。
久我記者の写真

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