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2004/06/29日付紙面より
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商業化五輪が真犯人
スポーツ部 首藤正徳記者
渦中の被疑者が、ついに容疑を認めた。陸上男子100メートルの世界記録保持者ティム・モンゴメリ(米国)が薬物使用を認めた。24日付のAP通信によると、ヒト成長ホルモン(hGH)の使用などを証言したという。五輪を目前にして、また悲劇は繰り返された。
注目すべきは彼の背後に巨大な組織が動いていたことだ。モンゴメリや大リーグのボンズ外野手に栄養補助剤を提供していた会社が、「クリア」と呼ばれる禁止薬物のステロイドを製造供給していたという。「hGHの使用禁止は知っていたが、クリアは禁止薬物ではないと言われた」と世界最速の男は証言している。
ドーピング検査は68年のメキシコ五輪から始まった。当時は東欧など一部の選手が標的だった。しかし、大会が商業化された84年のロサンゼルス五輪以降、ドーピングは世界中にまん延する。88年のソウル五輪では男子100メートルで優勝したベン・ジョンソン(カナダ)が、筋肉増強剤の使用で金メダルをはく奪され、全世界に衝撃を与えた。
ただ、これまでのドーピングはコーチと選手など限られた関係の中で秘密裏に行われていた。しかし、モンゴメリの場合は、契約する栄養補助剤を製造する会社から禁止薬物を提供されていた。契約選手が活躍すれば、会社の知名度も上がる。ドーピングそのものをビジネスにした巨大組織ぐるみの犯行で、新たな局面を迎えた。
今回の一件で8年前に日本で起きたドーピング騒動を思い出した。アトランタ五輪を2カ月後に控えた96年5月、男子100メートルの第一人者だった伊藤喜剛にドーピング検査で陽性反応が出たことが判明した。3月の米国合宿での抜き打ち検査で、筋肉増強剤が大量に検出された。伊藤は無実を主張した。
当時、陸上担当だった私も本人や周囲を徹底的に取材した。その過程で不可解な事実が幾つも判明した。検出された薬物が通常の7〜8倍の高濃度だったこと。伊藤本人は「これでオレも一流」と抜き打ち検査を喜んでいたこと。名札を付けた冷蔵庫のボトルはだれでも開けることができたこと。彼に栄養補助剤を提供している人物もいた。
結果的に真実を突き止めることはできなかった。刑事事件ではない。取材にも限界があった。ただそのときに確信したことがある。伊藤が故意や過失で薬物を服用したのではないだろう、ということ。そしてドーピング違反は決して選手だけが被疑者ではないということだ。その周辺にさまざまな思惑がうごめいているということである。選手はむしろ犠牲者だった。
故意を認めたモンゴメリもまた犠牲者である。五輪で金メダルを獲得すれば出場ギャラは数千万円に跳ね上がる。メーカーとの契約金は億単位ともいわれる。栄光は彼だけでなく、周囲にも発生する。「リスクを負う」行為は許せないが、理解はできる。ならば本当の被疑者はだれなのか。それはテレビ放映権料やスポンサー契約料をバックに巨大なビジネスへと変ぼうを遂げたオリンピックそのものなのかもしれない。
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首藤正徳(しゅとう・まさのり)
スポーツ部。ボクシング、プロレス、夏冬五輪などを経て、96年からサッカー日本代表を7年間担当。昨年11月、約10年ぶりにバトル担当へ復帰した。88年入社。39歳。
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