人気脚本家、作家の野沢尚氏(44)が04年6月28日午後、東京・目黒区内の事務所で首をつって死亡しているのが見つかった。警視庁碑文谷署は自殺とみて調べている。野沢氏は「眠れる森」や「青い鳥」など数々のヒットドラマの脚本を手掛け、トレンディードラマ全盛期を支えた。また、作家として小説「破線のマリス」で江戸川乱歩賞を受賞。最近では、NHKで放送予定のドラマ「坂の上の雲」の取材に力を注いでいた。
警視庁碑文谷署によると、野沢氏は東京都目黒区の仕事場として使用しているマンションで、窓にビニールロープのようなひもをかけ、首をつっていたという。事務所を訪れた妻由紀子さんが発見し、マンションの管理人が確認した。由紀子さんが28日午後2時31分に119番通報。マンションの窓はすべて施錠されており、部屋の中には遺書のようなものがあったことから、同署は自殺と見て調べている。死亡時刻は27日深夜から28日未明とみられる。
関係者によると、野沢氏は仕事は順調で、特別に変わった様子はみられなかったという。今月9日に、サッカーを一緒に観戦した舞台関係者は「変わった様子は感じられなかった。アテネ五輪を舞台にした小説も書いていたし、舞台のプロットも考えていた。信じられない」と話した。
野沢氏は06年からNHKで放送予定だった全15話のドラマ「坂の上の雲」の脚本を担当していた。しかし取材に時間がかかったため、07年以降に放送が延期されていた。先週末まで宮古島、対馬で同ドラマの取材をしていたという。
野沢氏は日大芸術学部を卒業した後、85年にテレビドラマ「殺して、あなた…」(日本テレビ)で脚本家デビュー。92年、浅野ゆう子と柳葉敏郎が主演した「親愛なる者へ」(フジテレビ)の脚本を担当。以後も数々のトレンディードラマを手掛け、業界を代表する売れっ子の1人となった。97年には豊川悦司主演の「青い鳥」(TBS)、98年には中山美穂、木村拓哉主演「眠れる森」(フジテレビ)をヒットさせた。最近は、テレビ界の内幕を描いた「破線のマリス」など小説も手掛け、多方面で活躍していた。
遺作となった4月放送のテレビ朝日「砦なき者」は、役所広司演じる主人公のキャスターが、首つり自殺に見せかけて若者たちに殺されるという衝撃的な内容だった。「親愛なる者へ」や「素晴らしきかな人生」などで野沢氏と一緒に仕事をしたフジテレビ大多亮プロデューサーは「びっくりしました。脚本家としても作家としても脂の乗りまくっている時だけに、なぜ、という思いです」と話した。
| 野沢尚(のざわ・ひさし) |
| 1960年(昭和35年)5月7日、愛知県生まれ。日大芸術学部卒。83年「Vマドンナ大戦争」の脚本で城戸賞佳作入選。「眠れる森」などで向田邦子賞受賞。脚本を担当した主なドラマに「結婚前夜」「青い鳥」、映画「その男、凶暴につき」など。97年、小説家デビュー作「破線のマリス」で江戸川乱歩賞、「深紅」で吉川英治文学新人賞を受賞。02年4月、サッカー選手を描いた小説「龍時01−02」(文芸春秋)を出版した。家族は由紀子夫人と1男1女。
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「疲れていたのか」
野沢氏の母親はこの日、息子の死を電話で知らされ急きょ名古屋から上京した。事務所前で取材を受けた母親は「悩んでいる様子はなかった」と声をしぼり出した。最後に電話で話したときには「NHKの仕事をして頑張っているからね」と母を安心させるように語りかけたという。「たくさん仕事をしていたから疲れていたんじゃないでしょうか」と気丈に話していた。
関係者悲しみの声
ドラマや舞台で数多くの野沢作品に出演した役所広司(48) 4月に放送されたドラマ「砦なき者」のドラマの内容と野沢さんの死が自分の中でオーバーラップして混乱しています。昨夏、私が出演した芝居に、劇作家として「家にいると気になって仕方がないんだよね」と毎日、劇場に足を運んでくださった野沢さん、「砦なき者」の撮影現場で楽しそうにしていた野沢さん、本当に温かい心の持ち主でした。映画界、テレビ界はすばらしい才能を失ったと思います。そして私も自分の中で彼の存在の大きさに戸惑っています。ご冥福をお祈りいたします。
漫画家の弘兼憲史氏 92年に映画「課長 島耕作」で野沢さんに脚本を担当していただきました。その後、第2弾も担当していただいたのですが、何かの行き違いで降板されてしまいました。その際に、わざわざ私の事務所近くまで来ていただいて、ファミリーレストランで1時間ほど脚本について相談させていただいたことを記憶しております。細かい描写までこだわる思い悩むタイプのようでした。とても律儀な方で、その後も毎年、家族全員が写っている年賀状をいただいておりました。今後もチャンスがあれば、一緒に仕事がしたかった。本当に残念です。