大時化からの帰還
<高野光哉さん、大島往復を達成>
「これほど勉強になったことはなかった。海の怖さ、恐ろしさを改めて知った気持ちだが、失敗から得るものがいかに大きいかも、言葉ではなく体で知ることが出来た。計画中の水上バイクによる地球一周の航海に、最高の準備になったと思う」。
24日午後2時、アマチュア無線の「ハム・フェア」会場(有明、東京ビッグサイト)に無事帰還した海洋冒険家・高野光哉さんは、日に焼けた顔をはずませて、帰還式でそう話した。
アマゾン河を、河口からアンデス山脈の源流湖(コーメル・コーチャ)まで、水上バイクで遡った高野氏は、念願の「地球一周」計画の準備中だが、その一環として23日正午、東京ビッグサイトを出港、24時間の予定で東京=八丈島をヤマハ製水上バイクで走破する予定だった。
ところが強い南風の影響もあって、海は時化(しけ)。出発後、1時間でかわすはずだった三崎(三浦市)通過までに3時間半を要したという。
「東京湾では初め約3メートルの波だったが、三崎で伴走船から給油してからは高さ4メートルとなり、数分おきに10メートルを超える大波が押し寄せ始めた。水上バイクはアクセルのコントロールによって非常に安定度の高い乗り物になるが、10メートルを超える大波となると、ほぼ垂直に“壁”を駆け上ることとなり、その連続。私自身は、もっと過酷な状況も体験してはいるが、給油と記録を担当してくれる伴走船(約15メートル長)のクルーにとっても、ぎりぎりの状況になり始めた」。
高野氏は、「海のない」山形県上の山出身。仙台大学時代はジャンプでインカレ入賞などの記録があるが、「小さい頃から、海に強烈に憧れ、大海原を自由に走り回ってみたかった」という。
これまでも五大湖横断など、数々の水上バイクによる人類初の冒険をこなしてきた。無線システムのタカノ・コーポレーションを興し、あくまでも冒険は「自分の夢」としてチャレンジしてきた。「僕の夢とは、自分が走り、その体験を子ども達に伝えて、夢を共有することです」。
強じんな肉体と豊富な体験を備えて、いよいよ地球一周「7つの海を走破する」計画に取りかかるところだ。高野氏が目指す7つの海とは、南北の太平洋と大西洋、インド洋、地中海、北極海を指す。
海を知り、風を知り、波を知り尽くした男だ。
だからこそ、「八丈島往復は中止、いったん三崎に待避」の決断も早かった。
23日午後4時、いったんは大島に向かったが自ら計画を変更した。
午後7時、三崎に停泊。
24日午前6時、高野さんは「出航しましょう、大島を往復します。東京帰還予定は午後2時」と発表、伴走船も従った。
海ははやり荒れていた。「相互が波の谷間に入るので、ほとんど伴走船と視認ができなかった。しかし夜間航行とは心理的にも違って、大島なら大丈夫と判断。ハムフェアで待っていてくれる人たちのことも考えた。伴走船を含めての安全最優先はもちろんだが、苦しくてもベストを尽くさずに帰ると、一生それを悔いることになるから」。
不屈。
僕たちは、フィリピンから豪州までボロ船で脱出した米国人の「敵中漂流」(太平洋戦争での体験記)とか、南極に閉じこめられながらも奇跡の生還を果たした「エンデュランス号の記録」、あるいは映画の「パーフェクト・ストーム」などからしか、海との格闘を知ることができない。体験がない。それでも、そうした冒険談は胸を騒がせずにはおかない何かを持っている。
高野さんの苦闘と、決断、そして最後の勇気の話に、思わず血が沸いた。
午前6時に出発、通常なら1時間で到達する大島に到着したのが午前10時。激しい波だったという。そこから、給油をすませて一気に東京・有明に戻ってきた。
「予定した八丈島までは行けなかったが、この状況では精一杯やれたと思う。伴走船のクルーや東京で連絡をとってくれた仲間に、心から感謝したい。待っていてくれたアマチュア無線仲間にも、感謝したい。そして、またまたつらい体験をさせてくれた、海という師に、感謝の念を捧げたい」。
地球一周は、早ければ来年暮れから、2005年春の予定だ。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、57歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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