シンクロ美女写真展
<純粋な美の追求、新しい冒険の流れ>
大手町のサンケイ・ビルの地下2階で開かれている、世界水泳ソロ金メダリスト、ビルジニー・デデュー(フランス)の写真展(写真)を見た(29日まで)。
デデューは鼻栓をしないので特異な存在だが−−通常は鼻に水が入るので栓をする−−、本人は「そんなことは気にしたこもない子どもの時から栓はなくても平気だった」と話しているそうだ。
フランス人とプロヴァンス人は別種だ、という小説を読んだことがあるが、価値観も生き方も独自に感じられる。
大村克巳カメラマンが撮影、写真集「VIRGIN」(集英社インターナショナル)としても出版されている。
デデューのことを、会場に居合わせた大村氏に聞いた。
「ピュアそのもので、シンクロ以外に何も求めていない。その一途さが美しさのエネルギーの源流でしょう。最近の日本では、この純粋な美が、あまり見えなくなってきた」。
その一言で、十分だろう。
このデデューの振り付けをしたのが、世界で第一人者と言われる「水の芸術家」ステファン・メルモン氏だ。
メルモン氏は89年のフランス・チャンピオンで、その後自らも水のダンサー、芸術家として、プロの演技を世界に披露。ラスベガスでのショー「O(オウ=水)」などに出演する一方、競技のコーチとしても活躍中だ。
「自分では、冒険者だと考えている。人がこれまでやってこなかった分野に挑戦し、創造し、新しい世界を人々に呈示する仕事だ。シンクロ競技も、冒険だ。自分の内側にあるものを、思い切り外に表現する冒険だ。従来通りの手法で演技するだけでなく、もっと自分の内側を見つめ、そこにあるものを型や常識にとらわれずに外に引き出す。これまで、シンクロ競技はアスレチックな部分に焦点を当てて“美”を追求してきたが、いわゆる“スポーツ的な美”だけがシンクロの美ではなく、もっと自由に芸術的な“美”を表現すべきだと私は考えている。そのやり方に批判的な人も多い。確かに、新しいこと、独自なことをやろうとすると、必ず人を困惑させ、批判され、すぐには評価されにくい。私はそれを知っているから、創造的な手法が批判されると、嬉しくなる。ああ、やはり新しいやり方なのだ、人を困惑させている、と(笑い)。でも、いいものは必ず後で受け入れられる。デデューがそうだった」。
たまたま3度目の来日中だったため、会場で、そのような話を聞くことができた。
奥深い話だが、ガルウエーのインナー・ゲーム理論や、チクセントミハイ教授のフロー理論は、すでにこのコラムでも紹介済みだ。コラム愛読者には、水の冒険家の言わんとすることは十分お分かりと思う。
このメルモン氏は、ご存じのように武田組をコーチ、デュエットで銀メダルに導いた。パワーやスピードを追求し、それを日本的な色合いでアピールしてきた従来の方法と異なり、もっと純粋な“水中・水上の美”をアピールしようとした。ロシアに及ばなかったことで、案の定、「アテネ五輪はメルモン流では勝てない」、との声が強いという。
それはよく分かる。メルモン氏1人におんぶする強化法も、難しい部分がある。
ただ、彼の新しい流れは、シンクロ界全体にとっても画期的なことで、競技の魅力を根底から洗い直し、より広い視野でシンクロをアピールしていこうというものだ。それは世界のシンクロ界にとっては必要なことだろう。変化していかなければ、シンクロそのものが、他の競技に対して弱くなる。もしかしたら五輪からはじき出されるかも知れないという危機の今こそ、勇気が必要だ。
日本は、今や世界のリーダーの一角であり、その責任感と意識から、この冒険に船出するのも、悪くないのではないだろうか。
もちろん、競技では金メダルを狙って欲しいが、たとえ銀狙いでも(この競技の性格から、だが)、僕は、新しい手法でもう一度チャレンジし、その意義を世界にアピールすることも大切ではないか、と言う気がする。部外者の楽観論ではあるのだが、ただ日本が勝てばいい、という位置には、もう日本はいないと思う。もう、幹部社員ではなく、重役なのだ。関係者の苦慮するところだろう。
なおこの論点については、自転車雑誌「バイシクルクラブ」で、山崎浩子さんも詳しく書いている。メルモン氏との対談のもようは、写真展の紹介を含めて、9月13日の朝日ニュースター「日刊ワイド」(午後11時10分から)で放送予定だ。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、57歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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