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 2003年10月15日更新

王と星野:絶対と相対

<どっちが好きなの?人間日本シリーズ>

 最近、飼い犬のブームだという。

 ひところはハスキー犬のブームだった。ハスキー犬は自分の糞の上にも平気で寝転がるような、「いかにもロシア人的な」と書かれたりする鷹揚な性格で、そこが飼い犬に向いていたのだろう。大型犬を飼う満足感も、飼い主に与えてくれる。姿形は最もオオカミに近いがめっぽうおとなしく、しかし超然としたところがある。

 最近のブームはもっぱら腕の中に収まるような、いわゆる愛玩犬が対象らしい。かわいいし、オジサンがひもをつけてそのへんを散歩すれば、「まあ、かわいい」などと、女子大生に声をかけてもらえる(かもしれない)。それはそれで大いに購入目的を全うし、癒しを含めて役立っているはずなのだが、別の流派の愛犬家から見れば「何の役にも立たない」犬かもしれない。

 「いい犬」という評価ひとつにしても、基準がさまざまだ。悪さもせず、吠えもせず、ただひたすらに都会の現代生活に好都合な犬が「賢い」と思う人もいるだろうし、「そういう無表情な犬は、飼い犬になりすぎていて、犬らしくない」と、やんちゃなビーグル犬などの活気あふれる表情を楽しむ人もいる。

 僕はひたすらに働きたがるアッペンツェラー・マウンテン・ドッグ(スイス)の、ふんだんに残されているオオカミの攻撃性と、異常な忠誠心が大好きだ。バーニーズに配色は似ているが、バーニーズには、新聞配達さんが来るたびに玄関に体当たりして、ドアの内側から吠えかかるような馬鹿な過激さはない。

 一般に、人は自分に似ている犬を好むのだろうか、逆に自分にないものを持っている犬を好むのだろうか。

 酒場で野球の話になると、「僕はだれそれのファンで」という熱心な人が必ず現れる。

 さあ、日本シリーズだ。

 星野か王か。

 リーグ優勝時の騒ぎの規模からすれば、もう勝負はついたようなもので、阪神びいきが世の中圧倒的とおもいきや、「いや、日本シリーズとなるとなあ」と、言葉を濁す人が以外に多い。

 星野対王(以下敬称略)は、選手時代は実は王圧勝だったそうだ。巨人キラーも、長嶋には強かったが王を手玉にとることはなかなかできなかったと聞く。

 野球の神様と呼ばれるさる人は、「うーん、うーん。まあ、日本一への思いがより強い方が勝つなあ」とうめいたそうだ。だからどっちなの? と聞きたいのだが、返事はそこまで。周囲の解説では、これは王有利という意味だそうだ。

 「どっちが好き」論争も高まりつつある。

 「星野が好き。男らしい」という人もいれば、「彼はむしろ女性的な側面が効いているのだ。禿(は)げてないだろう、あれは男性ホルモンが少ないからだ」と、生理学的論説でチャチャを入れる人もいる(自分自身、シャンプーの量が少なくてすむ人に多い?)。では王は? というと、「大陸的な、豪快人だ」というファンもいれば「全く逆で、非常に繊細な神経の持ち主」と、これは長嶋との対比の上からの論評をそのまま対星野に持ち込む人もいる。

 一般的には、星野は相対的な勝利に執念を燃やす、勝ちの名手。王は絶対的な求道者という点で、ファンは2分されるようだ。

 星野は「だれかに勝つ」ことに執念を燃やし、それがパワーとなる男だ。時にはその相手が巨人であり、目の前に立ちはだかる者ならだれでも目標になる。相対的な価値観の男だ。対して王は道を究める「絶対値」が目標であり、勝つことはその経過にすぎないとすることもある−−などと、多くが言う。

 自分がそうでないから星野があるいは王が好きなのか、自分に似た部分を感じるから好きなのか。テレビ画面ではなく、テレビ画面を見るファンを見る方が面白い、と書いた小説家がいる。少しファンに失礼ではないかと思うが、それは一面の真実なのだろう。もっとも、王と星野をことさらに「好対照である」として対比させること自体が、2人に失礼かもしれない。

 8分の1だけ犬の血が混じったオオカミの物語「白い牙」を書いたジャック・ロンドンは、その小説の中で、「生き物は粘土のようなもので、どんな型にはめられるかで、いかようにも形は変わってしまう」と主張している。たとえオオカミでも人の愛情の中で生きれば、たとえ奥底に野性の血が流れていても、犬以上の愛情豊かな友になれるのだ、と。

 だから王も星野も、99・99%は勝負師として同じ野球血球の持ち主なのだろう。比喩的に言えば、異なるのは、わずかの0・01%にすぎない。しかし、そのわずかの差異がどう表れるか。

 いよいよ、人間日本シリーズだ。

著者の言葉
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著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、57歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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