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 2004年01月11日更新

谷川真理マラソン

<アミノ・バイタル20本背負って>

 ランナーの谷川真理さんが走り回って荒川河川敷でマラソン大会が始まったのが、2000年の正月だった。戸田橋の下を、向かい風を押して走る手作りの大会だった。

 今年の「谷川真理ハーフマラソン」第5回大会は11日、東京都北区(赤羽)の荒川河川敷野球場を会場として、9500人が参加した。北区陸上競技協会が主催。都内でのレース大会としては最大級だ。

 「僕は学生証を持っている。でもレースは学生割引がない。特に前半の向かい風は割引なし、いやあ苦しかったね」。早大文学部を卒業して今度は政経学部で地方政治を勉強する、そのまんま東さんは、ハーフ・マラソンをかなりいいタイムで走った。

 約10年前、彼と何かの機会に「マラソンをしたいね」という話をして、それから1年後に僕は生涯ただ1回のフル・マラソンに日刊スポーツ河口湖大会でチャレンジし、4時間半だった。東さんはそれから2年後ぐらいにやっと走り、4時間50分だった。「勝った」と僕は喜んだが、彼はその後もチャレンジを続けて、自己ベストをどんどん更新している。「今年の目標はやはり3時間を切ること。一度でいいから陸連の登録選手として福岡マラソンのような公式大会で走りたい」。負けた(笑い)。

 「できるかどうか分からないことに挑戦してみて、それがついにできたときの全身から湧き出てくる喜びは、一度味わうと忘れることができない。また何かに挑戦してみたくなる」。

 それがスポーツだ。

 それがランナーだ。

 たまたま知りあいが、同じくハーフを走っていた。学校時代は短距離の選手だった女性で、最近長距離を始め、今回が初めてのハーフだった。きつい風の中、悠々と2時間を切った。

 「悠々ですって? とんでもないです」。

 早朝、お子さんが急に具合が悪くなり、呼吸困難になったという。病院へ運び、一過性の症状と診断された。気が動転したそうだ。当たり前だろう。

 しかし応急措置を受けて「特に命に別状はない」と分かると、「じゃあ、母さんは走りに行くからね」と、大急ぎで駆けつけた。スタート時間ぎりぎりだった。

 それでもしっかりと21キロを走った。

 ゴールすると、顔の汗に土埃がべっとりとついていた。汗か、涙かは分からない。

 心配顔で側についていてあげるのも親心かもしれないが、子どもは子どもで、親に迷惑をかけることをとても気にする。「予定通り、ちゃんとでかけて、ちゃんと走ってあげること」が、この日の彼女にとっての「母心」だったに違いない。だから彼女の完走は、家族の宝物なのだ。

 ランナーたち。

 みな、それぞれにドラマを持ち、感動のドキュメント番組の主人公のような、それ以上の人生スタジアムを走り抜いている。

 僕は、本欄でもご紹介したように、暮れに「駅電」を走った。箱根駅伝の1区を仲間と走ろうとしたのだが、途中で飽きて、10キロからは電車でゴールした。半分電車だから、ハーフ駅電だ。いずれにしても長距離は苦手だ。谷川さんから「必ず走って」と言われていたので、日刊スポーツ代表として一番短い3キロを選んだ。「それはずるい。得意なことしかしない人はわたしゃあ嫌いだよ」と彼女に叱られ、「罰として、アミノ・バイタル(スポーツドリンク)を20本あげるから、これ背負って3キロ走りなさい」。

 アミノ・バイタルのウォーター・チャージのボトルは1本500グラム。20本で10キロ。背負って完走したら全部くれるというので、条件を飲んだ。大会スポンサーでもある50グラム精度精密体重計の「A&D社」のテントで計ったら、ザックを背負って総体重が72キロ。ランニング・シューズは持っていったが、日常履いているクロス・トレーニング用のヘビー・デューティ仕様の靴でそのまんま走った。

 1キロまでは楽だった。なにしろ背中にオモシがあるから、自然に前傾して向かい風に飛ばされないですむ。そこから苦しくなって、あえぎっぱなしだった。ふくらはぎからヒザの裏、太もも下部の裏と、日常のトレーニングやスポーツではなかなか使い切ることのない部位が、猛烈に痛む。それだけ、この運動は「基礎体力強化」の補助的なプログラムとして、優秀だということだ。宝物を見つけた気分だ。

 冗談のつもりだったが、逆に「これからも秘密の強化法としてときどきやってみよう」へばりきってゴールしたときに獲得した内心の充足感は、これまた何物にも代え難い。

 ザックに入れて手で持つと、予想外に重い。試しに持った人はみな「ギョエッ!」と叫ぶ。しかし本当は、背負ってしまうとそうでもない。手で持った感じの半分以下だ。でも、「そうでもないよ」とは僕は言わない。どうだ、すごいだろうという顔で、奥ゆかしく笑う。悦楽の時。

 そういうお馬鹿を含めて、9500人が荒川の土手を走りきった。高校のころ、この川で部活でボートを漕いだ。あの頃の川は、汚くて臭くて、腕にしぶきがかかるとそこが赤く腫れて、じんましんが起きた。今は、美しくすら見える。

 ランナーたちの靴音が、向こう岸へ元気よく響き渡る。

 足音の群れの中で、かき消される自分自身の足音を聞いているとき、「スポーツとは何か」などと考える必要はない。

著者の言葉
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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥

著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、57歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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