筋トレは有害か
<筋トレを無視する企業は弱体化する>
スポーツ選手にとって悩みの種になるのが、オフの筋トレだ。
マスコミ的には、選手がフーフー汗をかきながらオフのトレーニングに精を出している「絵」は、普遍的な冬の風物詩だが、選手の側にしてみれば、オフのトレーニングは実に微妙で、ある意味ではシーズン中よりも高い集中力や考察、デリケートなプログラミングが必要となる。
「長いオフ」に、初めは見えるが、(サマー・シーズン・スポーツの場合)正月をすぎてしまうと、残された時間は目に見えて短くなり、「のんびりとLSD(低負荷の持久力運動)から始めて」などと構えているうちに、あと何週間、という時限に達してしまう。
競技種目が何であれ、全身の細胞を0からリフレッシュするために、1時間以上の、心拍数を上げないジョギングなどのLSDからスタートするのは、まあ常識だ。
このとき、焦ったり、あるいはタイムスケジュールに遅れているために、無理して「ハアハア」とへばるほど心拍数をあげてしまうと、全く別のトレーニングになって、効果がなくなる。
体力強化にならないわけではないが、LSDを省略して強いトレーニングに入ってしまうため、後で筋肉の障害を起こすことにもなる。
一方で、「筋トレをやると調子が悪くなる。よけいな筋肉はスムーズな動きを阻害する」と訴える人もいる。
まさにその通りで、例えばゴルファーがジム通いに夢中になって、ゴルフに無用な筋肉をもりもり付けてしまった場合、当然スイングは以前と同じではなくなる。
その新しい肉体に沿ったスイングができれば別に問題はないのだが、人間、そうはいかない。
筋トレにも各種ある。ただ筋肉をモリモリさせる筋トレもあれば、必要な筋肉の動きを強化したり、反復運動の持久力をつけたりするトレーニングもある。何がどう必要かは、いかに優秀なコーチでも外からは分からないから、選手自身が自分の「体内感覚」を磨いて、自分でメニューを作り上げることが必要だが、集中力またはコンディショニングの基礎知識がないと、ついつい「マシンの目盛り」に夢中になって、体内感覚を感じ取ることができなくなる傾向がある。
プロなら、あくまでも「実動作」(例えばスイング)の感覚を持ちながら筋トレする必要があるかもしれない。
筋トレは、無用ではないだろう。筋トレだから力任せにただ頑張ればいいだろう、と思って、筋トレを小馬鹿にしてかかると、確かに有害なことがある。
ところで、企業にとっての筋トレ、もしくは「オフトレ」とは何だろうか。
通常の業務活動を「シーズン中の勝敗」に例えるとしよう。企業理念や倫理観、あるいは社員教育や厚生、勉強会や業界内外との交流といったことは、「オフトレ」に該当する。
オフトレなど全くせずに、ただひたすらに最大効率で目前の利益を目指す若い企業は、それなりにほほえましい。しかし、骨太な倫理観や企業の信念を持った「ベテランの会社」は、信頼感を与え、苦境にも強く、ライバルから攻撃を受けてもおどろくほど2枚腰3枚腰の粘りを見せてる。
こうしたオフトレは、ときには「今やっていること」と正反対のベクトルの研究を含むし、時には「内部批判」と受け取れるような内容の議論に発展することもあるだろうし、「とんでもない無駄」に見えることもある。
しかし、そうしたオフトレが、本当に無駄かどうかは決めつけられない。ゴルファーの筋トレのように、「実務」「誠実」の感覚を保ちながらのオフトレは、より大きく発展しよとする企業にとって、欠くべからざるものだ。
そうした感覚の鋭いオフトレは、ホンダなどは得意中の得意だ(だった)。
できれば外部の「先生」や「専門的な企業教育組織」などに頼らず、自力でプログラムに挑戦し、自分で自分を強くする動きを内部で起こすことが、理想なのだろう。
倫理観に欠ける企業が次々と明るみに出ているが、オフトレ不十分の「故障」とも言えないか。
そうした「骨格破壊」の兆候に直面することを恐れ、オフトレを恐れ、自分自身を恐れて、目を閉じている企業はないだろうか。
勇気とは、言葉ではなく行動である。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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