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フィギュアの残酷

<表彰式後に1、2位の順位が逆転>

 2005年12月25日更新

 スポーツは、ときに残忍な横顔をのぞかせることがある。

 スポーツは人間社会の反映だが、その闇の部分をも、やっぱり正直に写し返してしまうのだろう。

 24日のフィギュアスケート全日本選手権男子は、18歳の織田信成が19歳の高橋大輔に勝ち、優勝と発表された。

 しかしこの表彰式前後から、記録のミスがあったらしいとの騒ぎが静かに、しかし着実な波となって場内を襲い、約1時間後、ジャンプの得点の合計方式に関するコンピューターの設定ミスがあり、1、2位が入れ替わることが確定。改めて高橋が優勝トロフィーを受けるやり直しがあった。

 詳細は25日付の日刊スポーツ本紙をぜひごらん頂きたい。

 本欄では、この事件に関する印象と、スポーツの不公平に対する率直な気持ちを述べてみたい。

 ソフトウエアが古かったため、新しい採点方式に対応できなかったのが原因だと聞く。

 これは言い訳にならない。連盟側の失態だ。

 高橋も複雑な表情だったと聞く。織田の心中は察してあまりある。

 けれどもう1つ大事なことは、「現実には」高橋が勝って、織田が負けていたということだ。

 逆転で改めて表彰などということは、「得点を見る」姿をテレビカメラの前で演じることまでがすでに重要な「選手の役割(演技)」となってしまった現状では、考えられない事件ではあるが、結果には最終的に影響がない。時間はかかったが、事実通りに修正されたのである。

 連続した時間帯の中で修正が行われたのは、せめてもの救いだった。翌日では、もう「間違えてました」ではすまない事態になっていただろう。

 客観的には、トリノ五輪出場は高橋に分があるとも目されてきた。それだけに織田は、この世の「仮の優勝」をどれほど喜んだことだろう。それだけに、スポーツはあまりにも残酷だと思う。チャレンジャーとしての、すばらしいスケートだった。心構えだった。それが、結果にも現れた。

 そして高橋はそれを上回った。高橋もまた、さすがの勝負師だった。このような事件がなければ、はじめからきちんと結果が出ていれば、どんなにか「好試合」の印象を残せたことだろう。

 それを思うと残念だが、これまでもこのような不幸な事件が全くなかったわけではない。

 こういうことも、スポーツには初めから含まれているのではないだろうか。

 こういう不運や不幸に、スポーツ選手は負けてはならない。

 スポーツは世の中と同じように、実に不公平な面を持っている。初めからそういうもので、「あってはならないこと」ではあるが、年中それがあるのがスポーツなのだ。

 4年に1度という五輪周期が、特に伸び盛りの選手の運命を翻弄することも少なくない。

 15歳の浅田真央(9月25日生まれ)が、年齢資格(前年の7月1日の前日までに15歳になっていること)に抑えられて、トリノ五輪の参加(挑戦)資格を得られなかった。以前は特例があったが、そうした特例の隙間を国際連盟は密に埋めて、今ではどうすることもできないルールができあがっている。

 「特例を」という声は強く、政治的な動きでそれを突破することもあるいは可能だったかもしれないし、多くの日本人ファンはそう望んだかもしれない。

 けれど、それではルールの意味がなくなる。若年層(ジュニア)での行きすぎた強化や重圧、期待や金といった要素を抑制しなければならないという、過去の苦い体験から生み出された行政的なこの措置は、今だけではなく、明日を含めたスケートやスポーツ界全体にとって必要なルールなのだ。

 むろん筆者は特例に反対だった。スポーツを理解する多くの人たちと同じように、浅田真央の特例を実は望みながらも、それを要求することは卑劣であると感じ、声にできなかった1人だ。

 なぜいけないのだ、と主張する人の意見はそれでよい。しかし、若年層への異様な期待がどんな状況を生み出すかを観てきた人たちは、周囲の声の大きさに同調して「そうだ、特例でいいじゃないか」とは、言えなかった。ルールの重要性が分かっているのに特例に賛成するのは、あまりにも「スポーツマン精神に反する行為」に思われた。

 浅田真央にとっては不運だった。

 でも、スポーツというものは常にそういうもので、スポーツ選手は自分の不運を恨んではならない。

 浅田真央を指導する山田満知子コーチは、伊藤みどりの何度かの不運も乗り越えて金メダルへとリードした。そもそもホームリンクが狭くてすぐに一般客とぶつかるという「環境の不運」を背負っていたが、そのために逆に「その場でより高く跳ぶ」というジャンプを、伊藤みどりは身につけたと聞いている。不運がどんな形で幸運に変わるか分からないのも、スポーツだ。

 それを変えるのは運ではない。自分次第だ。

 泣くな、織田。笑え、浅田真央。そして多くの「ついてない」仲間たち。


著者の言葉
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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥

著者プロフィル
 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ
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