子供たちに伝えたい
鋳型にはまった生き方から独立
今年8月、ウガンダのビクトリア湖に源を発する世界最長6700 キロ のナイル川を、エジプトの河口から水上バイクでさかのぼる独創的なアドベンチャーに挑む男がいる。02年にアマゾン川を源の湖まで遡航(そこう)した海洋冒険家の高野光哉氏(44)だ。人はなぜ困難に挑むのか。日曜日付の挑戦シリーズ、今回は冒険家の「魂」にインタビューでチャレンジしてみた。
静まり返ったアマゾンの水面、かすかに爆音が聞こえてくる。水上バイクの水煙が見え始め、やがて時速100 キロ を超える速度で波をはね返し、滑空しながら、飛び去っていく。02年秋、テレビ朝日「ニュース・ステーション」でオンエアされた映像は、衝撃的だった。高野氏は河口ベレンから6500 キロ 、最後はアンデス山脈の奥深く眠る幻の源頭湖「コーメルコーチャ」(みどりの湖、標高4339 メートル )まで遡航、世界初の快挙だった。それから2年。
■水量世界最大のアマゾンから、今度は世界最長のナイル川に挑戦。3、4週間の短期決戦ですね。
高野 ピラミッドを見ながら走るのはロマンチックですが、エジプト領内はアスワンハイ・ダムなど、人の手で整備ずみ。本当に楽しみなのはスーダンの未開の流域です。砂漠を貫くナイル中流域は全くの野生の王国。ワニやカバ。何が起きるか分かりません。
■こちらは、なぜそんな危険に挑むのかが分かりませんよ。カバとぶつかったら食べられませんか。
高野 大丈夫、(私が)食べます(笑い)。実は私の最終目標は地球1周なんですが、夢に釣り合った苦労の積み重ねをしてからその夢に挑むのが、私の流儀なんです。経過抜きで結果だけ得ても、無意味だし楽しくない。だからアマゾンも苦しいことだらけだったけど、最後は「困難をありがとう」と川に感謝してきました。今回が地球1周への最終テストになります。
■あんパンを端から食べる方ですね、最近はあんから食べる商業ベースの冒険が主流ですが、走行はまた単独ですか。
高野 排気量760tのヤマハ製マリンジェットで1日12時間、400 キロ ずつ走る予定です。1時間当たり10 リットル の燃料が必要なので、友人の岩森一也君(44=湘南マリンクラフト連盟代表)に陸路で車両サポートを依頼。最小限の構成で突破します。食事も現地調達、冒険は単純な「手作り」が一番です。
■山でいえば無酸素の単独アタック型ですね。
高野 私は冒険の体験そのものが目的ですから、商業的な部分は考えません。だから宣伝費も無用。取引先のバーテックス・スタンダード社などの支援を受けていますが、基本は自費。冒険は準備を含めた困難自体が、実は一番おいしい部分なんですよ。根底には体験を子どもたちに伝えて、みんなに大きな夢を持って欲しい、鋳型にはめられた受動的な生き方や価値観から独立して、人生に力強く挑戦して欲しいという願いがあるんですが。
■それこそこのページの趣旨、ただ相手が「定年間際のオヤジ世代」ですけどね。子らに伝えるということですが、実際に障害児教育の経験がおありですね。
高野 横浜のYMCAの職員だった時、M君という自閉症児がいました。絶対に私の目を見ないし、話さないんです。私も意図して距離を置いて、心が開くのを3年待ちました。
■3年間もですか。
高野 あれはM君が9歳になった夏の日でした。水を怖がっていた彼が、プールサイドでそっと、私の指に手を伸ばしてきたんです。反射的にその手をつかんで失敗しましたが、次からは気付かぬふりして手を握り返さないでいたら、2週間後、水の中にいた私の胸にいきなり体ごと飛び込んできたんです。言葉で伝えきれないものがあるとしたら、その時の「ああ、彼が私を受け入れてくれた」という感激の深さでしょう。見ていた彼の母親がぼろぼろ涙を流していたのが、今も忘れられません。
■……。
高野 そのことがあってからM君はだれに対しても心を開くようになり、私が自分自身の夢に挑戦する日がきたと思いました。「夢は必ずかなう」ことを、自分の体験で証明しようと。
■なぜ水上バイクを。
高野 他人に頼ることなく世界の海を走り回る道具としてこれは最高だと、雑誌の写真で決めたんです。そこで豪州東海岸を駆け上がる計画を立てて、豪州大使館で、自分は水上バイク日本一だと説明したんです。
■優勝は何年ですか。
高野 実ははったりで、その時点では触れたこともなかった(笑い)。大学時代にやったスキーのジャンプに運動形態が似ているので自信はありましたが、申請が通ってからは必死で猛練習しました。先にあんを食べちゃったから、後が大変でした。
■食べるといえば、アマゾンのどんな奥地でも、現地の人とすぐ打ち解けて、同じもの食べてましたね。
高野 私、文明人の顔してないから(笑い)。大事なのは、いきなり「コンチワ ! 」などと踏み込んでいかないことですね。向こうも不安なのだから、まず全身を見せて、人畜無害だと納得してくれるまで距離を置いて待つ。それから敬意をもって、繰り返し顔であいさつするんです。笑顔こそ世界共通語なんですよ。

★高野光哉(たかの・みつや)山形県上山市生まれの海洋冒険家、44歳。仙台大学時代はスキーのジャンプ競技でインカレ8位入賞。卒業後は横浜・横須賀のYMCA専任講師としてアウトドア・スポーツを指導。85年から水上バイクによる長距離航海に挑戦、独創的な冒険に成功してきた。この分野の第一人者として国際的に評価が高い。無線システムの「タカノ・コーポレーション」を自営。アマチュア無線家。テクニカル・ダイバー。170 センチ、 70 キロ 。http://captain-takano.com/
★ナイル川 アマゾン、揚子江とともに世界3大河川の一つに数えられる。ギリシャの史家ヘロドトスは「エジプトは、ナイルのたまもの」と表現した。ビクトリア湖が源であることが証明されたのは、1861年7月21日のことだった
★水上バイク オートバイ・スタイルで立ち乗りする小型のタイプと、2人乗りも可能なスクーター型の2種類がある。船舶5級免許以上が必要だが、数日の講習でも取得可能
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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