気分はヘミングウェイ
海の「オートマ」アクセス・ディンギーはオヤジも楽し
いずれは、ヘミングウェイのように悠然と海を楽しみたい。そんな夢に最適な新型ヨットを、神奈川県江ノ島で試乗した。ディンギーというと難しいイメージはあるが、障害を持つ人も同等に乗れることを前提に設計されたこの「アクセス・ディンギー」は、言ってみれば海のオートマ車。定年間際のオヤジも気後れせずに楽しめる、新しい海のスポーツ文化になりそうだ。
海辺に住んでいる。潮に焼けたほおをして、ヘミングウェイ風のあごひげをはやしている。若い人から連絡があれば、さりげなく「いつでもおいで。たいがいはヨットで海にいるから」ぐらい言ってみる。
男なら一度はそんな「引退後」の夢を見るものだ。悠然と風を遊び、波を楽しむ。クルーザーでなくていい。1人乗りの小型艇(ディンギー)で十分だ。
−−いや、できれば2人乗りがいい。仕事先の女性が来たら「海から夕日を見よう」などと誘い出して−−。定年間際オヤジならではの夢は果てしなく広がるが、おおかたの人はヨットは金が掛かる、覚えるのが大変そうだと敬遠する。
そうとは限らない。
「このアクセス・ディンギーとは日本に入ってきてまだ4、5年ですが、障害者も楽に乗れるので、近年世界中が新しい海のスポーツ文化として注目している艇。1時間も練習すれば1人で乗れますよ」。(社)江ノ島ヨットクラブの松本富士也会長に誘われた。
実は、逗子のクラブでディンギーの手ほどきを受けた経験があり、その楽しさと同時に「あれこれ難しくて、数日では覚えきれない」現実の両方を、体で知っている。オヤジ世代は「簡単です」を額面通りには受け取らないが、それは用心し過ぎだった。

ワンポイント 帆が斜めの向かい風(1)で流線形にはらむと、外側の気流が速くなり、揚力(2)が生まれて矢印方向に引っ張られるが、艇の底のセンターボードが横滑りを止めてレールの役割をするため、結果的に(3)方向に動く。帆を張り過ぎるとロスする。 |
 |
 |
実物は全長約3 メートル 、公園のボートとほぼ同じで幅広く、見るからに安心感がある。
ヨットは通常、船べりに横向きに腰掛けて、バランスを取りながら同時にかじと帆を操作する。初心者は何していいのか頭の中がたこ足配線になる。反対側に移るときなどは、頭を帆ゲタにぶつけ、そのあたりをぶざまに転がり回る。会社で威張るオヤジほど、その屈辱は耐え難い。
ところが、この新型「アクセス・ディンギー」には、前向きに座るハンモック状のいすが付いていて、手の位置にあるジョイスティックでかじを操作する。
ベテランの斉藤儀雄さんと横並びに座って、するすると走り出す。帆が流線形を保つようにひもを調節しながら、ジョイスティックで艇の向きを決める。まるでテレビゲームだ。海の上に乗り出す必要もない。
帆ゲタも顔より高い位置にあるから、ぶつかる心配はない。艇の「おもし」でもあるセンターボードが25 キロ グラム もあり、安定性も高い。強風下でも簡単に帆を小さくできる仕掛けもある。
微風だと速度はやや物足りないが、驚くほど容易に向きが変えられる。気持ちいい。海のオートマ車だ。港を背にさえすれば目の前は太平洋、米国西海岸ももう遠くない。
本当に1時間で、アバウトだが操船出来るようになった。理屈は不確かだが、直観優先で風を楽しめる。苦手意識が先に立っていた従来型のディンギーにも、また挑戦してみたくなったから不思議だ。
「これを開発したのは、自分も障害を持った豪州の人たちで、初めから車いすの人でも乗れるように造られているんです。だからだれにでも優しい。江ノ島では海のバリア・フリーを目指して、障害者と同乗するボランティアの養成プログラムもこの春から進めています」(松本氏)。取材日には視覚障害を持つ人3人が、健常者と同乗して同等に海を楽しんでいた。
潮風の友情物語。
64年東京五輪のFD級レースで、豪州艇のクルーが強風で放り出される事故が起きた。このとき優勝候補のスウェーデン艇キエル兄弟は、100 メートル も後戻りして人命救助した。五輪がまだ人間味にあふれていた時代、同じ江ノ島沖の出来事だった。
自分1人のためでない、おおらかなヘミングウェイごっこ。海は清らかだ。
次は絶対、女と乗ろう。

★普及を推進しているNPOセイラビリティ・ジャパン西井伸嘉代表の話
「年配者でディンギーを始める人は多いが、置き場所の問題もあり、継続する人は意外に少ない。アクセス・ディンギーは再入門用としても最適。千葉県館山市のように修学旅行生に体験させているところもあり、地方行政の関心も高い。年配者や障害者にも同等に海を開放するきっかけにしたい」。
★夏休み体験も
アクセス・ディンギーを含めた、少年少女向けの海の総合キャンプがある。(社)江ノ島ヨットクラブ、NPO西浜ライフセービング・クラブらが主催する「第1回江ノ島・海のスポーツキャンプ」で、ライフセービングやシーカヤック、野外キャンプなどを7月21日から3泊4日で体験できる。参加費2万8000円、小学4年から中学3年まで40人を募集中。事務局 NPOバディ冒険団 電話 0466・26・4480 http://www.sports-buddy.jp
★アクセス・ディンギー
長さ2・3 メートル 、重量52 キロ で車でも運搬可能、マストの高さ4・1メートル、約50万円(1枚帆の2・3型の場合)。
★体験試乗
江ノ島ヨットクラブ 第3水曜と第4土曜日。団体は半日200円で(株)湘南なぎさパーク 電話 0466・22・2128へ。個人は(社)500円、江ノ島ヨットクラブ 電話 0466・22・0261へ問い合わせ。
★他に
横浜のみなと未来、横須賀市佐島のマリーナ笠島でも体験できる。
★NPOセイラビリティ・ジャパン
電話 03・3481・9788 http://www.sailability.com/mainjpn.htm
 |
 |
 |
 |

ご愛読に感謝申し上げます。すべてにご返信ができないため、整理の都合上、nikkansports.comの本欄、マスター及び筆者個人アドレスでは、コラム内容に関するご感想などのEメールは、現在すべて受付を中止しております。お詫び申し上げます。下記にご郵送ください。
また、他ページ、フォーラムなどへの転載は、引用を含めて、お断りします。ご協力に感謝いたします。
【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
|
 |
 |
 |
 |

 |
 |
 |
 |

後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ 】
|
 |
 |
 |
 |
|