息ひとつ乱さない背中追って心臓爆裂!!
日本ロードレース界の伝説的英雄・森幸春さんに教わった
「レースに出る」って、どんな感じだろう。9月に富士山をヒルクライムして少し自転車に自信をつけたおやじサイクリストが、11月14日に富士五湖の西湖で行われる市民参加イベント「サイクルグランプリ」に興味を持った。特別な乗り方が必要なのか。日本のロードレース史上最強といわれた森幸春さん(52)に、初心者のためのハウツウ講習を現地で受けた。いやはや、しごかれた。
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| 写真=日本ロードレース界の伝説的英雄・森幸春さん(右)
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おやじ乗り脱出
「背筋をそんなに伸ばさないで、もっとリラックスして」と、師匠が笑う。おやじ世代は、胸を張るのがいい姿勢だと仕込まれたから、自転車でも同じだと信じている。だから町でも前座りしてしりを突き出し、アゴを張り出し、腕を突っ張りながらこぐ偉そうおやじが少なくない。定年間際の編集委員おやじも同様だ。「森さんの門下生になる」興奮からか、つい無理して「いい姿勢」をした。違うのだそうだ。
◆レッスン森(1)
両腕を平行のまま、ひじを少し折ってハンドルを握る。外に突き出さないように。体重は腰でしっかりと支えて、腕に負担を掛けないこと。目はしっかり前を。
さすが師匠だ。その一言で「おやじ乗り」から脱出した。「ひじを折って内側に絞る」を意識すると、ハンドルのどこを握っても自然にロードレース選手のように、背中が丸くなる。やっぱり「見た目」から入るのが一番だ。
横浜の生まれ。80年(昭和55年)の国体、82年全日本ロードで優勝、全日本実業団も5度制した森さんは、初の欧州プロとなった市川雅敏らの若手とともに本場のレースに挑んだ、伝説的な英雄だ。90年の世界選手権には三浦恭資、高橋松吉らとプロチームで出場した。速さ以上に勝負の切れ味、したたかさで恐れられた。
現在は初心者からトライアスロン選手まで、幅広く指導する「グローブテクニック」(電話045・821・0508)を主宰。9月の「富士ヒルクライム」も軽々と1時間20分で上り、若手の一線級を降参させた。森は生きている。
その森さんが「じゃあ軽く一緒に走りましょう」。西湖の市民レースは50歳代なら2周20キロ。ほぼアクセル全開になる。軽くと言われたが見えもある。トップ・ギアで思い切りこいだ。ペダル(クランク)は1分間70回転、スタート直後の下りで時速40キロに達したが、いかん、5分でガソリンが切れた。森さんは、息一つ乱していない。
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| 写真=走りながら森さんにレッスンを受ける。おやじ(左)の愛車は70年代の名車、BSグランヴェロ(スチールフレーム)
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◆レッスン森(2)
通勤やサイクリングも同じ。重いギアで踏み込まず、ギアを軽めにして1分間90回転を目安に「回す」のが基本。足首で回さず、靴の角度はほぼ一定、かかとを下げ過ぎないように。最下点からペダルを引き上げる感覚を生かすとさらにスムーズになった。
なるほど、押してダメなら引いて回せか。おれはトイレのノブなのか。
「スポーツ的に乗るなら、ペダルが一番遠い位置になったとき、脚を伸ばしてかかとがペダル上面から1センチほど浮いているのがベスト」。サドルの高さもそう調整した。位置も後ろ気味にすると、実に気持ちよくなった。時速30キロ、1周20分は楽に行ける。
後で「チャンプ後藤は性格的に力みやすいから、標準よりサドルをやや低めにしましょう」と、直されてしまった。こぎにくくなった。こいでいる実感がないと訴えると「それはよかった。回して速く走るには、力を入れにくい設定で練習するのがこつ」。ほう。
分かったところで、速度を上げてもう1周。森さんの背中を見ながら、約50センチ間隔で必死について走った。森さん、どんどん行く。離される、もがいて追い付く。恐れ多くも、次第に森さんと競走しているような気分になる。近づく度に森さんが速度を上げる。走るしんきろう、この森ヤロー! ついに1分間120回転を突破した。
息が切れた。最大心拍数は220引く年齢が目安とされている。58歳は162だ。けれど、世間が決めた指標に何の意味がある。本能の牙をむき出し、ドッグレースの犬のように追いかけた。心拍計は1分間213、レッドゾーン突入だ。心臓、爆裂してみろ!
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| 写真=森さんの見事なフォーム
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◆レッスン森(3)
競争をおそれないこと。指導者は選手の個性のとがった部分をつぶさないこと。何くその本能を大切に。
上り坂でスパートしてゴール。気管支がひりひり痛むが、ここまで自分を追い込めるとは思っていなかった。1周15分ペース、苦痛と背中合わせの宝物のような体験だ。「1人では絶対にこういう体験できない。相手がいるから限界を超えられる。競り合いを嫌う人や、マイペースを大事にする人が多くなったが、レースをやれば必ず、新しい自分を発見する。遅い人にもレースは平等、きっと面白さを発見できると思う」。
背中は憎たらしいが、厳しさの奥に優しさがある。人は、傷ついた分だけ優しくなる。
「僕らは欧州で何ができるか、帰ってきてどうするかも考えず、本場を体験したい、もっと速くなりたいの一心で、会社を辞めて挑戦した。帰国してから質屋通いした一流選手もいる。スポーツに楽しさなんて求めなかった。ただ夢中だった」。それが今のサイクルブームの土台になった。この体験をぜひ形にしよう。
翌日から、おやじは教え魔になった。
サイクルグランプリ「ツール・ド・ジャパン2004西湖」参加要項
◆11月14日(日)
◆山梨県富士河口湖町・西湖周回10キロコース
◆クラスS=最上級者、A〜F、MTB、G=男60歳以上、O=男50歳以上、W=女性、小学生低学年10キロ、同3・2キロ、高学年10キロ、同3・2キロ、ミルキーレース=小学生未満、チームTT=4人編成で先着30チーム
◆参加費 一般=7000円、小学生以下=2000円、チームTT=1チーム4000円
<主催>日刊スポーツ新聞社、富士河口湖町、JCRC
<特別協賛>ブリヂストンサイクル
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、58歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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