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| 写真=「そーれ、そーれ」。「アメンボウ予備軍」予選2回目の力漕。おやじ(前列左から3人目)は失神寸前だ(撮影・長谷川文) |
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ハマの粋
横浜港ドラゴンボートレースに挑戦
山下公園前の横浜港でドラゴンボートレースが行われた。1艇20人。「一緒に漕(こ)ぎませんか」と招かれたおやじ編集委員、振り返れば高校時代はボート部だった。「女性チームも出るんですか」「もちろんですよ、白衣の美少女、生のナースチームが参加します」「よしきた、合点」。二つ返事とはこのことだ。5月28日、サタデーチャレンジレースの「アメンボウ予備軍」艇に乗り込んだ。
山下公園どよめく
本当に出てきた。
山下公園にどよめきが上がる。地元の複数の病院から集まった、本物のナースのチームだ。「少女」は言い過ぎだとしても、若くて美人ぞろいで生足だ。
漕げば水しぶきでびしょぬれになる。白衣が透けたらどうなるか。「ほう、今年は平均年齢が若いですなあ」。銀髪の品のよさそうな年配客が少し上ずった声で言った。常連の見物客らしく「下に水着を着ている子もいればまるっきりふつうの、生の白衣の子もいるのですよ」と、やけに詳しい。「見てなさい、彼女たちの番になると、乗下船で手を貸すボランティアが急に増えます。スポーツなのに、下心が見え見えで困りますな」。それはお前だろう、このエロジジイ。
パワーはないがそろった手さばき。63艇中の53位、2分5秒01でゴールするとやんやの喝采だ。さすが横浜、粋である。
☆ ☆
大会実行委員の吉崎弘紀さん(46=ビデオ製作会社ヒーローズ社長)によると「6月2日が横浜港の開港記念日。横浜青年商工会議所のOBらが、祭事の一環として94年からボランティアで始めた大会」で、職場や商店街、合コンでできたチームと多彩な顔ぶれ。経験も人格も問わないそうだ。そこが気に入った。おやじでも仲間になれる。
氷川丸に向かって
大桟橋側から3艇ずつ、氷川丸に向かって260メートルを漕ぐ。漕ぎ手は左右各9人、2列で乗り込み、船首に座った太鼓手のドン、ドンに合わせて「そーれ、そーれ」と、パドルで水をかくだけだ。船尾の艇長がかじを取る。風が強くなると沈(ちん)する艇もある。遊泳禁止海域なので救助艇で拾い上げる。日曜は優勝艇もゴール後に沈んだ。役員は大変だが見物客は大喜びだった。
本格チームは日曜のチャンピオンカップに、それなりのチームは土、日いずれかのチャレンジカップに参加した。ふだんは鶴見川でボートを楽しんでいる「アメンボウ」チーム全4艇の1つ、「アメンボウ予備軍」におやじも加わった。
予備軍? そういえば、おやじも高校でボートを漕いだが、部練の出席率が悪くて当時も予備軍だった。ぴったりだ。不足はない。
☆ ☆
ところがこの予備軍は、チャンピオンカップ出場の本ちゃん「アメンボウ」の2本目集団で、相当にレベルが高い、誇りも高い。ベストタイムを競う2回の予選では全体の4位、トップの瑞龍丸に2秒遅れの1分21秒34だった。不満足。しかも隣の艇の青年に「速いじゃないの、どこから来たの」と褒めらて、平均年齢40歳オーバーの社会人チームは全員ムッとした。おい青二才になめられてるぜ。
「パドルはできるだけ遠くで水に差せ」「身を乗り出して、パドルを縦に、垂直に引け」。技術談議に熱が入った。出場資格を取った4〜6位決定戦では、もう負けられない。
おれはへましない
ボートでは同艇の前後の漕ぎ手もライバルだ。1人の動きが遅れれば前後がぶつかり、背中や腕を打つ。おれだけはへまをしない、こいつよりもおれの方がきれいに、強く引いている。見えないライバル意識が艇を加速する。「そーれ、そーれ」が怒号に近くなる。
☆ ☆
鶴見川アメンボウ軍団の総帥格、松本和也さん(38)は、社会人になってNECの仕事を始めてからボートに乗り始めた。「ことにドラゴンには独特の楽しさがある。ドーンドーンという太鼓の音、男たちが遊びと承知で真剣になり、大声を出す。1度漕いだら間違いなく病み付きになる」。
体重90キロ、堂々たる漕ぎ手の沼田金之さん(50=三井物産)も「こういう体育会系の遊びに妙にひかれる。20年前、台湾で本場のレースを見たが、向こうは真剣勝負の対抗戦だった。闘争心をむき出しにして本気で何かに挑戦したり競争することを、今の日本は抑制しがち。その分ドラゴンは新鮮で、懐かしい」。
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| 写真=生足のナースだ! 「白衣の美少女」チームに視線集中
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吐き気こらえ笑う
おやじも夢中で漕いだ。「負けるなそーれ、勝負だそーれ」。腹の底から大声を出す。自分へしっただ。高校で「ローアウトって知っとるか」と先輩に言われた。「アウトローなら知ってます」と答えてビンタを食らった。映画「がんばっていきまっしょい」の田中麗奈のように失神するまで必死に漕ぐことだが、当時は元気でその上ずるかったから、ある意味あこがれはしたが失神しなかった。だが今回は間違いなくそれに近づいた。
260メートルを1分23秒36、時速約11キロ。5位艇に0秒44差で勝った。150メートル前後が一番苦しかった。ゴールで吐き気、こらえながらおやじは笑った。満足だった。
☆ ☆
だって。ありがちな女子アナのお笑い挑戦と一緒にされたくなかったから、前週の練習にもちゃんと出た。個人輸入した「K1エルゴ」というマシンで、1週間左漕ぎだけ練習した。手の皮が2回むけた。だから「順位決定戦とはいえ、負けてどうするバカヤロウ」と、本当に本気になっていた。周りのおやじやその予備軍もみな同じ顔だった。
こんな楽しい思いは久々だった。最近生まれた孫の風呂入れ係なので、祝勝会は参加しなかった。テントの売店で聘珍樓の肉まんを3個買い、家に帰って缶ビール。おやじ1人、ニタニタ笑いの酒池肉林である。
横浜ドラゴンボートレース決勝(参加2660人、観衆計20万人)
▽チャンピオンカップ(13艇) (1)正受院(大正大学カヌー部)1分11秒74(2)横浜サーフベイザーズ1分12秒46(3)舞浜河探検隊1分21秒52(4)東京龍舟(5)羽衣伝説(6)湘南アウトリガーCC江ノ島(7)イノジー(8)アメンボウ
▽サタデーチャレンジ(63艇) (1)東大島人力共漕会1分18秒62(2)よかちん兄弟(3)瑞龍丸(4)アメンボウ予備軍(5)オハナホウアウトリガーCC(6)ゆめ98
▽サンデーチャレンジ(57艇) (1)ワンピース1分15秒68(2)ネプチュー・ド・マリス(3)キャセイパシフィック航空(4)大森サンブーイング(5)オイスターズB(6)さー酒べいざーず
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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