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| 写真=スパッツにTシャツの超軽装で標高2017メートルの雲取山から駆け下る(撮影・長谷川文) |
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山道を駆け抜ける
アウトドア競技として急速に発展中のトレールランに挑戦!!
短いスパッツにTシャツの超軽装、登山靴の代わりにランニングシューズで山野を駆け抜ける。トレールランは、稲妻のようにアウトドアの世界に走り込んできた、新しい領域のスポーツだ。ふつうの登山やハイキングとはどこが違うのか、素朴な疑問も背負いながら、おやじ編集委員もそのなりをして、雲取山(東京都)にチャレンジしてみた。何事も形から入るのが好きなのだ。
登山者「おっ」
身軽感に興奮した。上りでも足がすいすいと前に出る。登山靴は構造上ストライドが制限されて「1歩1歩踏みしめて」という心理に自然に落ち着くが、トレール用ランニングシューズだと下半身に邪魔が入らない。「もっと速く、もっと速く」と、いつの間にか速足になる。遠足の気分。
ふつうの登山道を行く。背中の小さなザックを除けば見た目も市民マラソン選手と変わらない。けれど山では衝撃的なスタイルだ。登山者に「おっ」という表情で見返されるのが快感になる。
東京都で標高2000メートルを超えるのは雲取山(2017メートル)だけだ。JR青梅線奥多摩駅からバスで鴨沢へ。案内書ではここから5時間で山頂だ。ハイキングとしては手ごわいが道は整備されて歩きやすかった。傾斜が緩くなると小走りになる。
それで調子に乗った。尾根筋までは3時間半が年配登山者の目安だが、軽装のおかげでおやじは2時間。得意になった。
その傲(ごう)慢さが災いの元だ。尾根筋の手前で寒気がたまる個所を通過する。七ツ石山と雲取山のあん部に不用意に飛び出したら、体が一気に冷えた。風も吹き付けて、2リットル近い汗を吸い込んだスパッツが尻の穴にまで冷たく張り付いた。まるで全身冷湿布。「これが本当のスポーツマン湿布だ」などと自虐のギャグを飛ばしたら、ますます寒くなった。Tシャツも霧にぬれて乾かない。
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| 写真=上りでは太ももやヒザに手を当てる
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傲慢さが災い
登山ではないから着替えはしない。「山で沸かすコーヒーは格別ですなあ」などという休憩もない。止まったら動けなくなる。人目もある。この格好で今さら「私はのんびり派です」はない。余力がないからこそ動き続けるしかない。必死で1時間。頂上のくいにタッチしてUターンした。
「飛ぶように駆け下る」イメージが強迫観念のように頭にかぶさって、転がるように走って下った。滑る、下りは恐怖だ。トレールランって、何なのだ。
☆ ☆
自然路を使ったウルトラマラソンなどへの関心の高まりから自然に生まれてきた新しい領域で、通常の登山や市民マラソンに飽き足りない人々を包み込みながら、アウトドアの競技としても急速に発展中だ。
頂点に立つのが都岳連(http://www.togakuren.com/menu/menu.htm)主催、奥多摩の山野71・5キロを制限24時間で駆け抜ける「長谷川恒男カップ 日本山岳耐久レース」(10月9、10日)だ。昨年は横山峰弘さん(36)が8時間40分10秒で優勝。夜間走行を含むせいか完走者は1574人中968人という過酷さだった。
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| 写真=雲取山から七ツ石山へ、尾根を走る
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ヒザ手で押す
横山さんは群馬県水上の「カッパCLUB」でガイドを務めるほか山岳スキーの日本代表で、冒険レースでも田中正人さんのチーム「イーストウインド」の主力選手だ。事後、横山さんにツボを聞いた。
「尾根筋に出るときに、シャツはぬれたままでいいからその上にウインドブレーカーなどをはおって体温と気力の低下を防止するのが重要。問題はペース。自分の限界と相談して、むやみに走らないこと。僕は上りは大きく速く歩き、きつい個所ではヒザを手で押し下げるなどして、総合的なタイムアップを意識する。下りは上位陣の勝負ポイントなので、積極的に腰を前に出しながらつま先着地で下る。着地で意図して5ミリほど靴底を滑らせる工夫をして、筋肉への衝撃を和らげている」。
下り小刻みに
すごい。意図してスライドするのは超一流の肉体あればこその秘技だろう。けれど初心者にはまねができない。下りはどうする。
市民ランナーに聞いてみた。大阪女子で3時間12分、5月の八ケ岳山ろく「星の郷100キロウルトラマラソン」で病後にもかかわらず6位(12時間24分)に入賞した藤田千絵さん(44=三鷹陸協)は「登山の経験はないが、フルマラソンなど長い距離を体験してみたいという人は多い。私もその1人。駆け下るのに慣れていないので、上りも速足基調ですが特に下りで無理して走らないよう気を付けています。実は登山書のコースタイム通りに歩いても、ぎりぎりで完走可能なレースも多いんです」。
☆ ☆
おお、そうか。確かに長谷川恒男カップすら、24時間歩き通せば完走できる計算になっている。
上りはオーバーペースにならないようスムーズに、慣れと筋力が要求される下りは飛ばずに、チョンチョンと小刻みステップで。これがコツらしい。そういうことなら、初心者おやじにも楽しめそうだ。
奥多摩駅まで石尾根を下る通算35キロのコースがお薦めだが、今回は疲労で敗退、七ツ石山から鴨沢へ下った。所要2時間、実力以上に飛ばしたから腰が引けていっそう疲れた。でも快感は心に残った。また行こう、希望もふくらんだ。
「トレールランでも最小限の装備は必要で、比較的平たんでよく知ってる山道を選ぶ。何より一般登山者に配慮して、こっちは快速そっちは各駅などという意識を捨てること」と、アウトドア誌編集者の山本晃市さん(37)は指摘する。
山は速きゆえに尊からずか。ヘヘ、でも本当にそうかなあ。おやじは心の中で舌を出した。
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後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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