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ちんぱん川喜田のF1放浪記
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 2005年9月8日更新

いつまで続くドタバタぞ……

 F1で最も大切なのは「仕事の精度」。ドライビングも、マシンの開発も、そしてチームのピットワークも、すべての精度をギリギリまで高めていく努力が勝利への鍵となる。そしてどんなにマシンが速くなっても、いかにドライバーが全力を尽くしても、ある一定の確率でレース中に「ミス」が起こればすべては台無しになってしまう。イタリアGPではチームの基本的なミスが琢磨のレースをボロボロにしてしまった。

 モンツァで起きたのは「給油」を巡るピットの混乱だった。16周目に最初のピットインを終えた琢磨がその次のラップにもう一度ピットイン……。1回目の給油で装置のモニターにエラーのメッセージが出たためである。

 ちなみに本来はあってはならないことなのだが、F1給油装置はFIAの指定品でレース中にトラブルが起こることが少なくない、そこでチーム側は1回目の給油で燃料がきちんと入らなかったと思い、バトン用の給油装置でもう一度燃料を入れ直そうと考えたのだ。

 一方、無線でピットへと呼び戻された琢磨はそのままだと燃料切れの心配もあるため、ややペースを落として1周を走りピットイン。ところが燃料は最初の給油でキチンと入っていたため、2度目のピットインで継ぎ足した燃料でタンクは溢れてしまい、結果的に琢磨は「満タン状態」の重いマシンでコースへと復帰することになってしまったのだ。

 F1全19戦の中でもピットインのロスタイムが多いのがモンツァ、そこで1回余分にピットに入るだけでも大きなロスとなるのに、予定外の満タンで重くなったマシンは挙動も大幅に悪化し、タイヤへの負担も厳しくなって、ラップタイムは一気に低下。しかも17周目の給油では、いかに満タンといえども残り36周を無給油で走りきることは不可能なため結果的に3ストップ強いられた琢磨は不本意な16位でレースを終えることとなった。

 予選でバトンに次ぐ5番手に着け、ライコネンのペナルティで2列目からスタート。レース序盤も快調に4番手を走行していたことを考えれば、あまりにも残念な結果である。チームメイトのバトンも8位入賞がやっと……という結果を見れば、今回のBARホンダは相対的な戦闘力でやや苦しい状況だったといえるだろうが、それでも琢磨はもっとレースらしいレースができたはずだった。

 それにしてもなぜ、こんなつまらないトラブルが起きてしまったのか? チームはなぜ1回目の給油で燃料がきちんと入っていたことが分からず、無駄な「2度打ち」をしてしまったのか? その理由のひとつはBARホンダチームの「準備不足」にある。

 F1で使用される給油装置はどのチームも共通だが、トップチームの多くはこの給油装置を重量計を備えた台の上に乗せ、仮に何らかのトラブルがあっても給油装置全体の重さをチェックすることで燃料が何キロ入ったのか確認できるようにしている。もし、BARが初めからこうした対策と取っていれば、装置のモニターにエラーメッセージが出ても、琢磨のマシンに何キロの燃料が入っていたか正確に把握することができていたはずだ。

 また、チームはバトンの給油の直後、そのままバトン用の給油装置で琢磨の給油を行ったのだが、このふたつの作業の間に慌てて装置のリセットを忘れたため、バトンと琢磨のマシンにそれぞれ何キロの燃料が入ったのか全く把握できなくなり(琢磨のマシンはほぼ満タンだが、タンクから溢れかえった燃料の分、それより少ない可能性もあった……)バトンについても、ある程度の安全マージンを取って早めにピットインさせざるを得ない、つまり燃料が最も軽くなり、一番速いラップタイムで走れる周回を活かせないという状況も招いてしまった。

 BARはなぜ他のトップチームのような備えをしていなかったのか? また、モニターだけではなく、燃料の流れを目視する担当者がいなかったのか? 装置のリセットを忘れてしまったのか……。たったひとつのトラブルだが、その背景にはいくつもの原因が絡み合って存在している。こうして見ると、細部にわたる心配り、つまり仕事の「精度」という意味でBARはまだ、多くの課題を抱えていると言わざるを得ないだろう。

 だが、もっと深刻なのは、こうしたBARの仕事の「甘さ」が今に始まったことでないとうことだ。過去何年間ものあいだ、チームはこうした小さなミスをいくつも犯しているにも関わらず、未だに他のトップチームと同じような体制が取れていないということは、BARがそうしたミスの反省を確実に活かし切れていないということを意味している。レース中に起きうるあらゆる可能性を想定し、全ての面で仕事の精度を上げてゆくという考え方が欠けているとしか思えないのだ。

 来季のチーム残留をかけて闘う琢磨には、残り4戦、ひとつひとつのレースが重い意味を持っている。つまらないトラブルで貴重なチャンスを棒にふるのは、本当にこれが最後にして欲しい……。

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

川喜田研(かわきた・けん)

 1965年(昭和40年)4月20日、横浜生まれ。91年から「F1速報」、「レーシングオン」のスタッフライターとして働き、99年からフリーのF1ジャーナリストに。現在は「スポルティーバ」(集英社)「カーグラフィック」(二玄社)などに執筆中。愛称の「ちんぱん」は、成人男子とは思えないほどの落ち着きの無さ(本人は旺盛な好奇心ゆえと認識していますが…)や、締め切り直前のパニック状態(昔は編集部で跳ねたり、踊ったり、叫び声を上げたりという奇行を演じていたようです)がチンパンジーに似ていたことに由来する。
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