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  スポーツNOW(11月13日付)
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ピッチ&ストライド自由に操る高橋尚子


 高橋の強さに迫る。来年の世界選手権(パリ)代表選考も兼ねた東京国際女子マラソンが17日、号砲を迎える。高橋尚子(30=積水化学)は9月のベルリンでマラソン6連勝を飾り、50日間で再びレースに挑む。その強さの秘密は後半に見せる二重、三重のスパートだ。ストライドとピッチを自由に操る走法は、まるで自動車のギアチェンジのように勝負どころで加速する。左ろっ骨疲労骨折など負傷を抱えながら強行出場を目指す高橋が、東京で新伝説をつくる。

 高橋の下半身には、精巧なギアが内蔵されている。その強さは、後半、特に上り坂で現れる。記憶に新しいシドニー五輪。高橋は30キロすぎにサングラスを投げ、それを合図にシモンを振り切った。その後、2度のベルリンでは後半20キロ以降5キロごとのスプリットはすべて16分台。勝負がかかれば二重、三重のスパートをかけ、記録を狙えば、精密機械のように正確なピッチを刻んだ。17日の東京ならば、36キロの飯田橋付近から続く最後の上り坂が最大の見せ場だ。

 なぜ、こんなに強いのかを物語るデータがある。


◆大体大・豊岡示朗教授の研究

 01年ベルリンマラソンの1分ごとのピッチとストライド(センチ)を観測。20キロまでのピッチ数は毎分204〜210回、30キロまでは216回ペース。その間のストライドは144〜148センチだった。30キロから3キロほど続く上り坂でピッチ数が204回に減るが、逆にストライドは最大で150センチまで、平均3〜4センチ伸ばして対応。結果的にスプリットタイムの低下を防いだ。

 「生理学的に見ても、走るときの上下動が少なくフォームが完成されている。陸上は素質が9割と考えていいでしょう。あれだけの心肺機能を持ち、ピッチとストライドを使い分け、あれだけ効率よく走れれば、強いのは当然ですよ」と豊岡教授。

 強さを示すもうひとつのエピソードが、ベルリンマラソンで走行中にできた血まめだ。高橋は、左足の裏に直径3センチほどの血まめをつくってしまった。スパイクの劣化が原因だが、そのため思うように記録が伸びなかった。しかし、そのまめをつぶすことなく走りきった。通常なら、まめを割るか、痛みをかばって走りそのもののバランスまで崩してしまうところ。


◆山下佐知子の目

 高橋の走りは、片方の足が接地した瞬間、もう次の動作に入っている。普通の選手なら多少は体の「沈み」があるが、高橋にはそれがない。前への動きにまったく無理がなく、スムーズなんです。腕もそれほど大振りする必要がない。だから、同じ速度で走ってもエネルギー消費は少ない。それだけ効率のいいフォームといえます。

 自在なギアをもった強力なエンジンと、負担のかからないフォームが合わさったとき、高橋の無類の強さが生まれる。

 その高橋が、現状に満足せず、あらたな挑戦の場として選んだのが東京国際の舞台だ。わずか50日間での2レース。これも1年近く前から練った計画だという。より高い次元のマラソンを求める高橋のチャレンジ精神が、怪物をさらに大きくする。【牧野真治】


◆高橋尚子(たかはし・なおこ)

 1972年(昭和47年)5月6日、岐阜市生まれ。岐阜・藍川東中で陸上を始める。県岐阜商から大阪学院大を経てリクルート入社。97年1月の大阪国際が初マラソン。同年4月、小出監督の移籍に伴い積水化学入り。昨年9月のベルリンマラソンでは2時間19分46秒の当時の世界最高をマーク。現在マラソンは6連勝中。163センチ、45キロ。

尚子のライバル、ラドクリフやヌデレバ

 東京国際でマラソン7連勝を狙う高橋だが、世界には強敵が現れてきた。

 今年10月のシカゴマラソンではポーラ・ラドクリフ(28=英国)が2時間17分18秒の世界最高をマーク。高橋とは対照的に、筋力トレーニングで鍛え上げた上半身を揺らしながら、グイグイとストライドを伸ばして行った。2時間18分47秒の記録を持つキャサリン・ヌデレバ(30=ケニア)もいる。

 五輪連覇を狙う高橋にとって今後、最大のライバルとなりそうだ。高橋も東京国際後は、大肉体改造を計画している。ラドクリフのシカゴマラソンはテレビで見た。その後「今後はスピード練習を増やさないといけない」と高橋。小出義雄監督(63)も「これからは非常識的なメニューを用意しなければ」と話した。04年アテネ五輪に向け、高橋の新しい挑戦が始まる。


◆短間隔

 「50日間で2レース」は高橋にとって、大きな挑戦となる。過去7戦の高橋は最も短い間隔でも6カ月は空けてきた。「肉体の限界に挑戦したい。今後の調整法のためにもいい経験になる」と話している。過去、日本選手では浅井えり子が92年1月の大阪と同3月の名古屋を35日間隔で連戦し、13位と3位だった。安部友恵は01年11月の東京、02年1月の大阪、同3月の名古屋と3連戦し、12、5、6位だった。いずれも五輪代表選考の追試でやむなく出場したもの。世界ではカトリン・ドーレ(ドイツ)が86年に37日間に連戦し、連続優勝した。


◆高橋のスプリット

 国内最高記録を持つ山口衛里のように一般的に後半にラップタイムが落ちるが、高橋は後半に再びペースを上げる底力を持つ。勝負を重視した00年名古屋国際、シドニー五輪では20〜25キロの間に第1のスパートがあった。名古屋ではそのままスピードに乗り、続く30キロまでを最高ラップとなる16分16秒で走り、優勝を確実にした。シドニーでは最初のスパートで市橋を振り切り、30〜35キロで再び第2のスパートを見せた。最近4レースの20キロをすぎて5キロごとのスプリットで17分以上は1度もない。


◆アテネ五輪への道

 東京国際女子マラソンは03年8月世界選手権(パリ)の選考会のひとつ。2時間26分を切って日本人トップならば、世界選手権代表に内定する。世界選手権でメダルを獲得して日本人トップなら、04年アテネ五輪の代表に決まる。左ろっ骨を疲労骨折するなど、万が一、ここで欠場した場合は03年11月の東京、04年1月の大阪、同3月の名古屋のいずれかで結果を残すしかない。

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