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  スポーツNOW(11月12日付)
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日本を守れ! 新型薬物「THG」上陸も…JOCが対応急ぐ

 新種の筋肉増強剤テトラハイドロゲストリノン(THG)が、欧米スポーツ界を揺るがしている。人為的に合成された薬物で、8月の世界陸上選手権の米国代表ら数十人にドーピング違反の嫌疑がかけられている。来年のアテネ五輪に深刻な影響を及ぼす恐れも大きい。国際オリンピック委員会(IOC)は今月に入って禁止薬物リストに掲載。日本に流入しているかは不明で国内の検査体制もまだ整っていないが、日本オリンピック委員会(JOC)は対応に乗り出す。

 THGはドーピング検査の網をかいくぐるステロイドとして、米国内で開発されたと見られている。同国の陸上コーチの告発で使用実態が発覚。陸上中距離のレジーナ・ジェイコブスらトップアスリートから陽性反応が検出され、疑惑の渦中にある選手は40人を超える。「クロ」と結論が下されれば、アテネ五輪出場はおろか、最悪の場合選手生命を絶たれる。

 事態を重くみた国際陸連と国際水連は今夏行われた世界選手権のサンプルを再検査する方針を示し、徹底した違反者の洗い出しを行うことを決めた。IOCは今月5日に禁止薬物リストに掲載した。米陸連は「初犯」でいきなり永久資格停止処分を科す案を検討するなど、各団体は厳しく対応する姿勢を見せている。

 ギリギリの線で薬物を使用してでも競技力を向上させて高額賞金を狙う選手と、それを支援する研究者や組織が存在する限り、不祥事は繰り返される。旧東独で実行されていたステロイド改造ほど大規模ではないにしても、依然として検査の目を欺くいたちごっこが繰り返されていることが今回の騒動で鮮明になった。

 トップ選手のアンチ・ドーピング意識が非常に高い日本でも、危機感が募る。プロ化が進み、上を目指す選手が薬物に頼らないとは限らない。川原貢JOCアンチ・ドーピング委員会副委員長は「国内でTHGは販売されていないが、インターネット等で入手は可能なので確認はできない。日本でも対応しないといけない」と新薬物対策に本腰を入れる考えを明らかにした。

 国内のドーピング検査機関からはまだ具体的な検出法は示されていない。国内競技団体でもアンチ・ドーピングの最先端を進む日本陸連の野田晴彦医事委員は「ステロイド・ホルモンと構造は変わらないので、資料を洗い直せば比較はできる。まったくの新種ではないから、従来行ってきた検査の延長でできるのではないか」と推測する。THGはカリフォルニア州の栄養補助食品会社バルコが選手に提供したとされる。マラソンの高橋尚子や水泳の北島康介ら、米国内での高地トレーニングは日常化しており、何らかの経路で口に入る危険性が指摘される。アテネ五輪まで9カ月。IOCはすでに各国の検査機関に検出法を送付したという。日本の検査機関の回答が待たれる。【岡山俊明】

 ◆THG(テトラハイドロゲストリノン) 近似した分子構造を持つステロイド類のゲストリノンとトレンボロンから人工的に合成された薬物。禁止されているたんぱく同化ステロイド類で、筋肉増強作用と男性的特徴の促進作用がある。たんぱく同化ステロイドは副作用も強く、こう丸収縮や月経異常などが起こる。

 ◆ドーピング検査 成績上位者、あるいは無作為に抽出。現在行われているバレーボールW杯の場合1チーム2人ずつ。尿採取の時は不正防止のため同性のテクニカルオフィサーが立ち会う。尿検体は検査用のAサンプルと確認検査用のBサンプルに分け、検査機関へ。コーヒーや茶に含まれるカフェインは禁止薬物だが過度の摂取(目安はコーヒー8杯以上)でなければ違反とはならない。

 ◆日本のアンチ・ドーピング対策 各競技団体が予算化し、独自でドーピング検査を行っている。日本陸連は例年、国内団体最高の約1200万円の予算を割き、年間約300件の検査を行っている。競技会だけでなく、他団体が踏み切れない競技外(所属での練習中など)の検査にも積極的に取り組んでいる。国もスポーツ振興くじtotoから検査料3万5000円の75%を補助金として交付して支援。検査は85年に三菱化学ビーシーエルの協力でアジアで初めて設立されたIOC認定ドーピング機関で行われる。


totoでアンチ・ドーピング活動助成

 サッカーくじ(toto)の売り上げをもとにした来年度のスポーツ界への助成金が大幅に減る見通しの中、日本体協は11日、助成の申請を総合型地域スポーツクラブと、国体のアンチ・ドーピング活動に関連する事業に絞る方針を明らかにした。くじの売り上げ減少に伴い、来年度のスポーツ界への助成は、本年度の約27億円から5億〜10億円まで落ち込む見通し。


THG問題経過

 ◆10・16 米国アンチ・ドーピング機関(USADA)が米国内外の複数の陸上選手がTHG陽性反応を示したと発表。マデンCEOは選手、コーチ、科学者で結託した悪質なケースと指摘した。

 ◆10・19 米メディアが連邦大陪審が陸上選手以外にも大リーグのバリー・ボンズ(ジャイアンツ)ジェーソン・ジアンビ(ヤンキース)、NFLの選手ら40人に証言を求める召喚状を送ったと報道。

 ◆10・20 国際陸連が8月の世界選手権で採取された尿の再検査を検討。

 ◆10・22 陸上英国選手チェンバーズから陽性反応。

 ◆10・25 IOCがアテネ五輪でTHG検出可能と発表。

 ◆10・26 米USAトゥデー紙が陽性反応を示した選手として陸上のレジーナ・ジェイコブズ、ケビン・トスの名を挙げる。

 ◆10・30 米陸上4選手が連邦大陪審の召喚に応じるが、証言後のコメント拒否。

 ◆11・5 IOCと世界アンチ・ドーピング機関(WADA)がTHGを禁止薬物に指定、リストに掲載。国際水連は7月の世界選手権で採取した312検体を再検査。ドイツのドーピング検査機関も過去2カ月分のサンプル再検査を決定。


伊藤さん4年間出場停止「本当に自分の尿だったのか…」

 日本陸連が本格的にアンチ・ドーピングに乗り出したきっかけは96年春、陸上短距離の伊藤喜剛選手が米国合宿中の国際陸連による抜き打ち検査で陽性と判定され、4年間出場停止処分(後に2年に軽減)を受けたことから始まった。アンチ・ドーピング小委員会を立ち上げ、再発防止にまい進。97年から2年に1度「クリーンアスリートを目指して」と題した啓発誌を選手、団体に配布し、薬物に対する意識を浸透させてHPにも情報を満載した。

 アトランタ五輪の夢を断たれた伊藤選手は当時断固として否定、抗戦したが覆らなかった。停止期間中も貯金をはたいてこう丸組織採取手術を受け、潔白の証明を試みた。「まったく身に覚えがない。なぜ無実の人間が体を切り刻んでまでやらないといけないのか。陽性とされた尿は本当に自分の尿だったのか」。00年に引退し、茨城県内でスポーツインストラクターとして後継者育成に心血を注ぐ伊藤さんは今も自問自答。ドーピング根絶を強く願っている。

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