高橋尚子、アテネへ2つの道…代表選考混乱で陸連にプレッシャー
女子マラソンの高橋尚子(31=スカイネットアジア航空)の師匠、佐倉アスリートクラブの小出義雄代表(64)が18日、初めて今後の具体的な方向性を示した。「来年3月(14日)の名古屋国際に出たら、アテネ五輪(8月22日)に間に合わない」と発言。16日の東京国際で2時間27分21秒の2位に敗れ、五輪代表決定は先送りになった。水面下で選考レース再挑戦の準備を進めるが、仮に出場すれば金メダルが遠のく矛盾。五輪代表選考はますます波乱の様相で、日本陸連サイドにもプレッシャーがかかりそうだ。
金メダルを取りにいくなら、名古屋は回避−。これが小出代表の本音だった。「まだ悩んでるよ〜、ガハハッ」と笑ったヒゲの名伯楽だが、この日初めて今後の高橋の方向性を示した。
「3月の名古屋国際に出たら、アテネ五輪には間に合わない。金メダルは無理だな。入賞が精いっぱいになる。だってよぉ、休む期間がないもん。走る気がなくなっちゃうよ」。
飛び出してきたのは衝撃的な言葉ばかりだった。数々の非常識を常識に変えてきた師弟にも無理なことはあった。東京国際で2時間27分21秒とまさかの失速。アテネ五輪代表権を確実にできなかった。その余波はまだ収まりそうにない。名古屋で結果を出し、アテネ五輪に出場するのが誰もが納得する道。だが、それは約9カ月間で3レースを消化することを意味する。来年で32歳になる高橋には無謀だ。
道は2つ。「名古屋→五輪」なら入賞止まり。「東京→五輪」なら金メダルが狙える。高橋はすでに来年1月の選考レース、大阪国際で日本人選手が好記録を出した場合に備え、年内のプロ活動をキャンセルして名古屋に向けた準備を始めた。日本陸連の内部、世間には「高橋の金メダル」を期待する声が多い。だが、このまま代表に選出されれば「ライバルの陸上関係者は納得いかない」(小出代表)ことになる。だが、名古屋に出れば金メダルが遠のく。矛盾が生まれる。
日本陸連の選考基準は「各競技会の日本人上位でメダル獲得、入賞が期待される選手」。高橋も該当するが、大阪、名古屋の結果次第で波紋は避けられない。このあいまいさが、悲劇を繰り返す。小出代表が投げかけた言葉は、嵐を予感させた。
小出流「金メダル獲得」プラン!ラドクリフに逆転できる
ラドクリフ(右)に激励される高橋 |
小出代表はひそかに「金メダル獲得プラン」を温めていた。高橋が来年のアテネ五輪に出場すれば、最大のライバルはラドクリフ(英国)。4月のロンドンマラソンで2時間15分25秒の驚異的な世界最高記録をマークした。眼力に定評のある名伯楽は「高橋が同じ条件で競り合いながら走れば、2時間17分50秒ぐらいは出すよ」。つまり実力差は約2分30秒。
プランは97年の世界選手権に基づいている。当時、積水化学の監督だった小出代表は、鈴木博美を擁して金メダルを獲得。アテネのコースは誰よりも熟知している。そのとき、5000メートル代表だった高橋に「ここはお前のコースだ」と話したことを今でも覚えている。序盤は平たんな道、18キロ付近から断続的な上り、30キロを過ぎると一気に下るのがアテネの特徴。小出代表の戦略はこうだ。
「五輪は8月。暑さで30秒から1分は縮まる。アジア大会(98年、バンコク)で2時間21分台を出してるからね。次に下り。Qちゃんは下りの走りがうまいし、強い。ラドクリフさんも苦手じゃないけど40秒は縮められる。調整も大事だね。Qちゃんが最高の状態でたどり着いて、ラドクリフさんが普通の状態なら30秒は縮まる。あとの20秒は運。アテネのコースがQちゃんの味方になってくれるか? だね」。ラドクリフの過去3回のマラソンは、有能なペースメーカーをつけ、タイムだけを競ってきた。勝負の駆け引き、経験なら8戦6勝の高橋に分がある。何より五輪で勝った実績がある。それが小出代表のいう「運」でもある。
調整が完ぺきならラドクリフに勝てる。金メダルを取れる。少なくとも小出代表が机上で並べた数字はそれを物語り、米ボルダー合宿中から高橋に話し続けてきた。ただ、代表を決めるはずのレースで失速してしまった。この日、飛び出した「名古屋に出たら、アテネ五輪には間に合わない」という発言は、名古屋を回避し、じっくり準備を進めれば金メダルを狙えることを強烈に示唆している。【牧野真治】
◆高橋「走る気出ない」 高橋はこの日も休養にあて、都内から千葉・佐倉に戻った。小出代表には「まだ、走るぞっ、という気持ちにはなっていない」と話していたという。当初、この日はラドクリフとの対談が予定されていたが、キャンセルした。
医学のプロ必要
◆高橋の大阪学院大時代の恩師・山内武監督「医学スタッフがチームに加わる必要があります。間違いなく力はあるけれど、加齢とともに維持するのが難しく、ピークの期間が短くなってきました。今回は貧血が主な原因と聞きます。定期的な血液検査を行っていれば防げたかもしれません。99%は小出代表の指導で埋まりますが、残りの1%が埋まらない」。
小出代表の発言の推移
◆東京国際前=15日 大会最高(山口衛里の2時間22分12秒)は出ますよ。Qちゃんにはもう好きに走れといいました。
◆東京国際当日=16日 こんなQちゃん、初めて見た。苦しんでるよ。(レース後、高橋から五輪に行くにはもう1度、走らなくてはだめか? と問われ)当たり前だよ。27分台で2位じゃ…。3月の名古屋? 本人が走りたいといえば、走らせる。
◆レース一夜明け=17日 うーんと食って休めばいい。今はわけ分からなくなってるけど、3、4日すればジョギングですっ飛んでいくだろう。42キロ1回走ったって、3日も休めば、もう1回走れる。1週間で出ようとしたこともあるんだから。
代表選考の主なトラブル
◆アピール会見 92年バルセロナ五輪の女子マラソン代表争いは世界陸上4位の有森裕子と、大阪国際で有森の記録を上回る2時間27分2秒をマークした松野明美の争い。松野は異例の記者会見を開き「私を選んでください」とアピール。しかし、有森が選ばれて銀メダル。
◆強行選出 96年アトランタ五輪女子マラソン代表に連続メダルを狙った有森を選出。前年8月の北海道マラソン優勝が「暑さに対応できる」と判断された。バルセロナから北海道まで丸3年のブランクがあり、批判の対象になった。
◆CAS裁定 00年シドニー五輪前、競泳自由形の千葉すずが日本選手権で五輪A標準記録を突破する優勝でも選考されず、国際スポーツ仲裁裁判所(CAS)に提訴。CASは千葉の訴えを却下した。
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