日本のスポーツ界に根強い「早生まれは不利」。確かに、プロ野球でもJリーグでも1~3月生まれは極端に少ない。しかし、過去の五輪選手の誕生月を調べると、意外な事実が分かった。最多は1月生まれで、金メダリストも早生まれが一大勢力。不利のデータはなかった。日本陸上競技連盟が育成指針を出すなど、金の卵が眠ると注目される早生まれ。スポーツを諦めることなく、金メダルを目指してみては?(データはいずれも日刊スポーツ調べ)


金メダリスト誕生月別の人数(日刊スポーツ調べ)
金メダリスト誕生月別の人数(日刊スポーツ調べ)

31・3%対18・2%、33・4%対18・6%-。プロ野球とJリーグ(J1)の所属選手(外国籍選手は除く)の4~6月生まれと1~3月生まれの割合だ。ともに「早生まれ」に対して4~6月生まれが圧倒的に多い。競技は違うが、割合はほぼ同じ。「早生まれ不利」がデータに表れる。

小学生の時に運動のできる子は4月や5月生まれが多い。逆に、1年近く成長に差がある3月や2月生まれは体格や体力で劣り、競い合いの中でドロップアウトする子も少なくない。もちろん、成長のスピードは個人差も大きいが「早生まれ」がドロップアウトしなければ、この数字はない。

ところが、五輪では状況が違う。日本が初参加した1912年ストックホルム夏季大会以来、昨年の平昌冬季大会まで、日本代表は44大会で4300人余り。80年モスクワ大会の幻の代表や公開競技も含む「オリンピアン」から芸術競技、誕生月不詳を除く4056人を生まれ月別にすると、意外な事実が分かった。



最も多いのは1月生まれで392人。3カ月ごとでみても、1~3月の「早生まれ」は1043人で25・7%。4~6月の24・5%を上回る。大きな差ではないが、少なくとも「早生まれ不利」とはいえない。

金メダリストは、さらに顕著。団体競技を含む夏冬195人のうち、1月生まれは27人と最多で4月の4倍以上。1~3月生まれは31・3%で、4~6月の倍近い。複数獲得者では、体操で6個の中山彰規、同5個の遠藤幸雄、同3個の内村航平らが早生まれ。2個以上の金メダルを獲得した選手は過去26人いるが、うち6人が1月生まれ。1~3月までで10人もいる。



実は日本人として金栗四三とともに初めて五輪に出場した陸上短距離の三島弥彦は2月生まれ、20年大会で熊谷一弥とのダブルスで2位になり、日本人初のメダリストとなったテニスの柏尾誠一郎は1月生まれ、28年大会陸上3段跳びで日本に初の金メダルをもたらした織田幹雄も3月生まれ。日本の五輪史は「早生まれ」が作ったといえる。

野球やサッカーと違って五輪は個人競技が多いのが「早生まれ不利」ではなくなる理由。金メダルを量産してきた体操や柔道、競泳などは近年、スクールや道場など学校とは別の組織が充実し、学年とは関係なく成長できる環境がある。遅咲きでも諦めずに続けられるから、花開く時がくる。20年東京五輪では卓球の石川佳純(2月)、バドミントンの奥原希望(3月)、体操の谷川翔(2月)ら。早生まれの金メダリストが、また増える可能性がある。


五輪選手誕生月別の人数(日刊スポーツ調べ)
五輪選手誕生月別の人数(日刊スポーツ調べ)

■体格差のある小学生でドロップアウトか

「金の卵を埋もれさせるな!」。早生まれ選手のドロップアウトを阻んで将来の金メダリストを育てるために、スポーツ界は動きだしている。昨年12月、日本陸連は各都道府県の強化担当者に対し「育成指針」を公表。その中で、1~3月生まれの子どもたちに対する指導の指針が提案されている。

陸連は「早生まれ」指導の大切さをデータをあげて説明。全国小学生大会出場者は4~6月生まれが40%を超すのに対して、1~3月生まれは10%以下。年齢が上がると平均化するが、高校総体でも1~3月は少なく「将来性のある才能が早期にドロップアウトしているおそれがあります」と警鐘を鳴らす。

他競技でも小学生年代の大会が整備され、結果が求められることが多くなってきた。目先の勝ち負けにこだわると、早生まれの子は置いていかれがち。陸連は「小中学校期の競技成績(差)による将来性の評価や選抜には慎重を期す必要がある」と、長い目で指導することの重要性を訴えている。

さらに、競技転向、種目転向の勧めも説く。日本代表選手の多くが本格的に陸上を始めたのは中学、高校からで、小学校からは16・3%だけ。「小中学校期には多様な種目を経験し、高校期以降に最適な種目を模索するプロセスが重要である」と提言している。



スポーツ庁も子どものころに多くの競技に親しむことと、その後の競技転向を後押しする。同庁の「Jスタープロジェクト」は、埋もれた才能の発掘が目的。早生まれの子の中には競技をやめ、スポーツそのものからも遠ざかるケースがある。そこにも「金の卵」はいるというのだ。

スポーツ庁の鈴木大地長官は「ある競技でダメだとしても、他競技ではチャンスがある。スポーツでは、どんどん浮気を」と話す。3月生まれの鈴木長官は子どものころ体も小さく、弱かったという。体を鍛えるために始めた水泳で金メダルを獲得。だからこそ、その言葉には説得力がある。



体操の内村航平は小学生時代を「病弱で体育も得意でなかった」といい、柔道の上村春樹氏は「運動音痴で走っても一番遅かった」と振り返る。「早生まれ金メダリスト」の多くは遅咲きだが、自身の努力と周囲の理解で頂点に立った。東京五輪を見て「金メダルがとりたい」という子どもも増えるはず。「そんなの無理」ではなく、才能を信じて長い目で育てることだ。そこから育つ「早生まれ金メダリスト」がいれば、それも20年東京大会の「レガシー」になる。


●世代別代表は1月始まり

プロ野球とJリーグは生まれ月による偏りが目立つが、年齢層が下がるとさらに顕著になる。今年の全国高校サッカー選手権に出場した48校の選手は、4~6月生まれが37・1%。1~3月の早生まれは13・9%しかいなかった。

ただし、W杯出場選手には意外なデータがある。98年フランス大会から昨年のロシア大会までに出場した日本代表選手は137人。1月生まれは19人で9月の20人に次いで多く、早生まれが27・0%を占める。ロシア大会は23人中早生まれが7人、14年ブラジル大会では10人。98年大会の3人から急激に増えている。

U-17、U-20W杯、五輪など世代別の代表の区切りは1月1日。つまり、学校の4月始まりが、サッカーの世界では1月始まりになる。早生まれは世代代表の中で年長になるため、中心選手として活躍する場も多く、それが成長を助ける。「W杯出場」には早生まれが有利かもしれない。