8月31日に開幕するバスケットボール男子ワールドカップ(中国)で、世界ランキング48位の日本は1次リーグでトルコ(同17位)、チェコ(同24位)、米国(同1位)と対戦する。アジア2次予選では4連敗後、崖っぷちからの8連勝で21年ぶり自力出場を勝ち取った「アカツキファイブ」はW杯で、開催国枠で出場する20年東京オリンピックに弾みを付けたい。NBAウィザーズの八村塁(21)ら、魅力的な日本代表メンバーは、どんな選手たちなのか。予選で主将を務め、誰よりも仲間をよく知る篠山竜青(31=川崎)に、主力選手の素顔を語ってもらった。【取材・構成=松熊洋介】


誰より選手を知る篠山竜青がメンバー紹介
誰より選手を知る篠山竜青がメンバー紹介

初めてA代表に呼ばれたのは16年夏で遅咲きの方。実は人見知りで、盛り上げるのは好きだけど、疲れた時には「怒ってるの?」と言われるくらい顔が“死んでる”し、しゃべらない時もある。予選では主将でしたが、ラマス監督の方針なのか、練習前に話すとか円陣とかもない。ミーティングを1度やったぐらい。絡みづらい人もいないので、引っ張る意識はなく、名前だけ主将です(笑い)。一番求められているのはディフェンスだと思うので、頑張ってチームに貢献したいです。

プライベートでは、2歳の子どもがいて、休日は家族と過ごしますが、家事を全くしないので、いいパパではない(苦笑い)。少しずつ街で声を掛けられるようになったので、前はパジャマで駅前に行ったりしてたけど、身だしなみを気にするようになった。一番うれしかったのは(スラムダンク作者の)井上雄彦さんに似顔絵を描いてもらったこと。バスケット選手ならみんな夢だと思います。

●篠山竜青(しのやま・りゅうせい)1988年(昭63)7月20日、神奈川県生まれ。北陸高校から日大に進学。日大バスケットボール部「レッドシャークス」3年時にはユニバーシアード日本代表に選出され、4年時には主将を務める。卒業後、11年に東芝入りした。17年からは日本代表の主将に。ポジションはポイントガード。178センチ、78キロ。


八村塁(21=ウィザーズ)

塁は、普通です…。普通ではないか(笑い)。全く自分を大きく見せようとしないし、親しみやすく、誰とでもフランクに話す。長男なんで面倒見もいい。チーム内では愛されキャラで、悪口を言う人はいないんじゃないかな。もちろんすごいとは思っているが、その雰囲気を出さず、感じさせないのが塁です。

去年、代表戦で会ったときもアメリカからノリノリで帰って来て「お久しぶりで~す」みたいな感じでした。練習着のズボン(ハーフパンツ)が長いのが嫌で、動きやすいように短くしたくて、はさみで切ってきた。切り過ぎたのか、ミニスカートみたいになっていて爆笑でした。自分からボケるというよりは、おちゃめで天然な部分の方が多いのかな。日本語がちょっとおかしかったりすると、みんなで突っ込んだり。本当におもしろいやつです。


渡辺雄太(24=グリズリーズ)

「なべちゃん」も明るい性格です。塁(八村)と同じで自分から進んでボケるとか突っ込むとかはないけど、おおらかな塁に対して絵に描いたような好青年。生真面目で欠点は見当たらない。昨年、初めて代表に参加した時にNBAとのボールの違いに早く慣れないといけないからと移動中のバスの中でもホテルの部屋でも、ずっとボールを持っていました。真面目な性格が出てるなって思いました。だからといって、おとなしい感じでもない。みんなでいれば話すし、とても明るいです。

なべちゃんのお母さんも元バスケット選手で、僕のことがめっちゃ好きで大ファンらしく(笑い)、普段から応援してくれています。「うちのお母さんが竜青さんのファンなので写真撮ってもらっていいですか」と宿泊先のホテルに来て、写真を撮ったことがありますね。僕の自慢のエピソードです(笑い)。


馬場雄大(23=A東京)

雄大は、学歴はしっかりしてます。筑波大を卒業していて、教員免許も持っているし、卒論もダンクシュートがどれだけ試合に影響するかというテーマで書いたらしいです。でも普段の会話で、その感じが全然出てないです(笑い)。いい意味で“少年感”というか子供っぽさが強いですね。朝が苦手なのかな。Bリーグは昼からが多いですが、代表の練習は朝なので、いつも眠そう。自分から誰に対してもというわけではないが人懐っこくて、話し出すとどんどんしゃべる。いかつい顔の感じとのギャップがあって笑顔がかわいくて癒やされます。年上の優しいお姉さんにモテそう、あくまでそんな「感じ」です。


比江島慎(28=宇都宮)

比江島は…、しゃべれません。極度の人見知りで話せない、目を見られない。オフコート(コート外)での話ですけどね。ただ、慣れるとズケズケくるタイプ。上をいじるくらいの力はつけてきたかな。初めて会った時は高1でした。その時に比べたら成長している。場数を踏んで人付き合いも上手になった。NBAのサマーリーグでアピールできず、英語ができたらとか言ってたけど、勇気を出して挑戦したこと自体が感動。堂々としたプレーと、普段のオドオドしたギャップでモテる感じが腹立ちますね(笑い)。Bリーグのイケメンに選ばれているし、イラッときますよ。たまに悪口とか言いますしね(笑い)。


田中大貴(27=A東京)

大貴は代表で会うまでは、クールでスカしたやつだと思っていたけど、同じ部屋になってただの恥ずかしがり屋かなって、分かりました。(スラムダンクの)流川君タイプ。一緒にいると話してくるし、いじってもくる。長男で妹思い。誕生日プレゼントをせがまれて悩む姿を見て「田舎のいいお兄ちゃんじゃん」と思いました。最初は欲しいものを頼まれていたけど、最近は「振り込みお願い」と言われて振り回されているみたい(笑い)。きれい好きで、部屋の物の配置が決まっているタイプかな。自分はがさつなので、部屋での荷物の広げ方とか見てそう感じます。


竹内譲次(34=A東京)

譲次さんは「ザ・アニキ気質」で頼りがいがあります。競馬が好きな関西のお兄ちゃんって感じですね。普段はそんなにおしゃべりではないですが誰かが何かやった時には、すかさず鋭い突っ込みを入れてきます。普段はマシンガンのように言葉を発するわけではないけど、たまに出る“1球”がスパッと決まって笑いに包まれる。勉強になります。プレー中の指示も同じように的確で分かりやすいです。バスケット含め、いろんな知識も豊富。ニック(ファジーカス)も譲次さんのIQの高さを評価しています。


ファジーカス・ニック(34=川崎)

ニックはとにかく頭が良くて語学への順応も早い。日本大好きで電車の乗り方は僕より詳しい。恥ずかしがり屋の面もあるが、話すとふざけたり急に踊りだしたり。子どもが好きで、チームメートの子どもにも構わず英語で話し掛けて遊ぶなど扱いが上手。ベビースイミング(親子の水泳教室)に一緒に行ってます。最初1人で恥ずかしかったけど、ニックに「何で行かないの? 行こうよ!」と誘われ行くようになったんです。残り99%はお母さんと子ども。恥ずかしくて1人では行けないけど行くと結構楽しいものでニックさまさまです。


フリオ・ラマス監督(55)

代表の遠征中に子どもが生まれた時からずっと、家族のことを気に掛けてくれる。代表や、Bリーグの試合で会った時、普通なら試合のことを聞かれるはずなのに、ラマスさんは「奥さんと子供は大丈夫か? 病気してないか?」とまず家族のことを心配してくれる。子供の写真を見せながら会話が始まる。みんなをファミリーとして見てくれるところが人としての魅力です。

メディアに対しても協力的だと思う。メディアの皆さんの協力があってバスケットボールを日本中に広めていかなければいけないと思ってやっている。日本をよく理解している人。熱心に日本を良くしようと思ってやってくれている。地球の裏側(アルゼンチン)から来ているので、そういう覚悟を持っているんだと思う。熱いし、誰にでも同じ温度感で叱咤(しった)激励する。アドバイスも、常に自信を失わないようにしてくれている。できない人を叱るのではなく、全員をしっかり評価し、引きあげてくれる。とても大好きな監督です。


●ワールドカップ(W杯) 以前は世界選手権、14年からW杯に名称変更した。今大会から参加チームが24→32に増加。1次リーグ(L)は32カ国が4カ国8組に分かれ総当たりのリーグ戦を行う。勝利すると勝ち点2、負けると同1。勝ち点が同じ場合は総得点などで順位を決定。各組2位までが2次Lに進む。対戦していない国と戦い、上位2カ国が準々決勝に進み決勝トーナメントで優勝を争う。1次Lで3、4位の国も下位同士で2試合を行い16~32位を決定する。



●トルコ<ベテラン2人中心>5大会連続出場の強豪で10年に準優勝。06年以降は全て8強入りしており、欧州2次予選は8勝4敗2位で通過。NBAで主力として活躍するイリヤソバ(バックス)と元NBA選手、エルデンのベテラン2人が中心となる。若手はスピードのある身長200センチ超のオスマン(キャバリアーズ)や、米国からトルコ国籍を取得し18年ユーロ杯MVPの190センチPGウィルベキンに注目。


●米国<辞退する選手続出>92年バルセロナ五輪で初めてNBA勢が参戦しドリームチームを結成。五輪は3連覇中で、W杯も3連覇を狙う。トレードが相次ぎ、辞退選手が多い今大会はディフェンスの強い選手が多く、チーム力で戦う。それでも3点シュートが打てるロペス(バックス)、爆発力があるエースのミッチェル(ジャズ)、変幻自在の点取り屋ウォーカー(セルティックス)ら注目選手を挙げれば、きりがない。


●チェコ<ブルズ選手が中心>世界ランキング24位ながら初出場。同10位のロシアを撃破するなど欧州2次予選を8勝4敗の3位で突破。16年リオデジャネイロ五輪最終予選では日本を87-71で下している。唯一のNBA選手であるサトランスキー(ブルズ)が中心。201センチのPGで何でもできる。俊敏性があり、鋭いドリブルが得意。18-19年シーズンはウィザーズでけがのウォールの代わりに活躍した。210センチ超の大型センター2人も要注意。


■NBAコメンテーター、塚本清彦氏(58)のE組展望

日本がE組を突破するには初戦のトルコ戦がカギです。NBAサマーリーグでプレーした八村や渡辺雄は、マークも厳しくなるが、アジア2次予選で崖っぷちの4連敗からチームを救ったように、2人が活躍してチームが勢いに乗れば、突破の可能性も高くなる。

トルコ、チェコはともに国内リーグが盛んでチームの完成度が高い。長身選手も多く、リバウンドが重要になる。身長差があるため、対応が遅れると失点につながる。攻撃では数的優位を作って空いたスペースで仕掛けることが必要だ。

ディフェンスがゴール下に3秒以上いてはいけないNBAのルールが、欧州の試合やW杯ではないためゾーンディフェンス(エリアを守る)が可能になる。背の高いセンターがゴール下に構えていることが多く、3点シュートの得意なファジーカスが外におびき出し、空いたスペースに八村らが飛び込んでいくような攻撃が効果的だ。八村、渡辺雄に加え、馬場や田中ら身長のある選手の起用や、ゾーンとマンツーマンの形の変化も必要だろう。

多くのスター選手が辞退した米国は、華やかさはなく「NBA選手がたくさんいるな」というより「いやらしいプレーをしてくる」印象。国際経験が少なく、チームがまとまっていない。付け入るスキはあるが、勝つのは簡単ではない。個人でもチームでも差があるので、選手それぞれが個の力でどんどん勝負していった方がいい。勝てなかったとしても、多くのチーム関係者が注目しておりアピールにもなり、メダルを狙う東京五輪にもつながる。

バスケットの世界200以上の国・地域の中で、日本はようやくスタートラインに立てた。勝敗も大事だが、今後も日本がどれだけ世界に出ていけるかを占う意味でも、重要な大会になる。


◆日本の1次リーグ日程◆

 9月1日17時30分 トルコ

 9月3日17時30分 チェコ

 9月5日21時30分 米国

■TV中継 DAZNとフジテレビNEXTで全3試合生中継。さらにトルコ戦、チェコ戦はBSフジで、米国戦はフジテレビ系列で生中継。