2018年2月23日、ピョンチャン五輪、フィギュアスケート最終種目・女子シングルが行われました。

 期待のかかる日本勢2選手はそろって最終グループでの滑走、前回大会より少ない出場人数ながら最大限の活躍を見せてくれています。

 さて、最終グループ第1滑走の宮原知子選手。すべての技術要素、また音楽との調和が自身最高のものであり、まさに出し切ったそんな演技を見せてくれたように思いました。

 小さな体を大きく見せる、月並みな表現ですが、今日の宮原選手、まるで別人のようにスケールの大きな滑りを見せてくれていました。

 最終結果は4位、メダルの可能性をギリギリまで守ってくれていただけに残念ではありますが、彼女の歴史の中で最大のガッツポーズを見られたこと、スケートファンにとっては大きなプレゼントです。

 「やれることは全てできた。この場に来られたことが光栄で感謝しています」、そんなコメントがそのまま演技中にもあふれ出していたような、そんな滑りだったと思います。


 もう1人の代表、坂本花織選手も素晴らしいファイトを見せてくれましたね。ステップ中の身のこなしには、思わず「おお」と声が出てしまうほどの上達があったように感じます。

 彼女は滑らかなスケーティングを持ち味としてもっていますが、ときにそれが余り、間というものを見られないときもありました。今日の「アメリ」のプログラムは、よく緩急がつき、最終グループでも存在感のある世界観を作り出していたと思います。

 シニアとして世界選手権の経験もない中この大舞台に臨みましたが、武器として語られた「勢い」そのものが、彼女の実力に裏付けられたものだと証明できたそんな試合ではなかったでしょうか。


 バンクーバー、ソチ、そしてピョンチャン。五輪を重ねるたびに、競技全体での安定感、そして高難度要素の増加を感じてきた女子シングルです。

 かつて、金メダルを獲得したキム・ヨナ選手くらいしか安定的に取り入れてこなかった3回転ルッツ-3回転トーループのコンビネーションが、第1滑走の選手から見られたことは驚きでした。

 すべての選手が難しい構成に挑んでくる現在を見つめ、改めて思ったことがありました。それはやはり、自分の武器となる「プラスアルファ」の魅力を持つことの大切さです。

 メダルまであと1歩と迫った宮原選手でしたが、惜しくも逃してしまった理由は、そこにあると思います。

 宮原選手は今大会、団体戦ショートプログラムでの悔しい判定を胸に、磨きがかかったジャンプに仕上げてきた。結果的に回転不足を作ることなく、フリーでは自己ベストを更新するハイスコアを獲得しました。

 それでも、今回のメダリストを見ると、ザギトワ選手は圧倒的なジャンプ構成と演技後半にそれを実行するという実行力。メドベージェワ選手はジャンプ中に手を上げるほか、複雑なステップの最中にジャンプを跳びます。オズモンド選手は、高さと飛距離、またスピードを生かしたジャンプで高得点を勝ち取っています。

 成功させるだけでなく、プラスアルファの持ち味を見せる。そんなことがジャンプでも表現でもできていた選手が表彰台に上がったように感じました。

 もちろん今日の宮原選手のパフォーマンスは本当に素晴らしく、どうにかメダルに届いてほしいと願いながら試合を見つめていました。男子シングルでも、ボーヤン・ジン選手にメダルをと願ったように、この女子シングルでもあと1歩となる4位の選手まで、素晴らしい輝きを放っていたなと思います。

 「想像以上に夢の世界、思う存分楽しめました」、そんな言葉とともに、宮原選手の晴れやかな笑顔が印象的でした。

 宮原選手は、持ち味の丁寧さときめ細やかさ、そんな表現を武器に、これからますますジャンプを磨き、坂本選手は大きな流れあるジャンプを維持しながら、表現の幅をさらに広げていく、そんなことを期待したいですね。

 ロシアが圧倒的な強さを見せてきた近年の女子スケート界の中ですが、それでも、着実にその差は縮まりつつあると思います。日本勢、男女ともに強さを見せてくれたそんなピョンチャン五輪でしたね。【川崎孝之】

 ◆川崎孝之(かわさき・たかゆき)1991年(平3)、愛知・半田市生まれ。安藤美姫をきっかけに、中学生からスケートファンに。19歳で編み出した陸上フィギュアスケートの活動が注目される。現在は氷上でのスケート練習に励み、大人からの選手デビューを目指している。