数日前、深夜１時までピョンチャン五輪のスピードスケート競技会場・江陵スピードスケート競技場周辺で取材し、江陵（カンヌン）駅に戻ってきた。遅い夕飯を取り、深夜２時半過ぎに駅の道路を挟んだ反対側にある、五輪開催を記念した展示館「フェスティバルパーク」の前を通った。すると、６０歳前後の女性が脇に５０代とみられる女性を連れて…というか従えて、つかつかと寄ってきて、「オッパ（お兄さん）！」と声をかけてきた。

　売春の誘いを仕掛けてきたとみられ、拒否してすぐに逃げた。世界各国の大会関係者、観客が仁川国際空港から高速鉄道ＫＴＸ１本で駆け付ける、ピョンチャン五輪の“玄関口”の目の前で、驚きの場面に遭遇した。翌日から連日、夜のネオン街を歩き、江陵の風俗事情の調査、取材を続けた。

　まずは、売春を持ち掛けてきた女性２人の出どころをつかもうと、現場となったパビリオンの左脇を、駅を背に歩き始めて約３分…早くも、それらしきあやしい建物が立ち並ぶ路地に行き当たった。温泉マークとハートマークのネオンが各所で点灯する中、角の店の前には、数日前に営業してきた女性とは別だが、同じ“におい”がする推定４０代の女性が立っていた。

　声をかけると、のっけから「１５分で５万ウォン（約５０００円）だよ」と切り出してきた。「１５分？」と聞くと「１５分あれば、出来るでしょ？」と、ややいらだったように返してきた。店に在籍する女の子の年齢を聞くと、３２歳くらいからだという。

　路地を右に曲がり３分ほど歩いた先には、江陵オリンピックパークなど各競技場行きシャトルバスの発着場があり、バスが何分かおきに着いては発車し、循環している。大会関係者や家族連れの観客も、路地を普通に通ってバス発着場へと向かう。そんな場で、と言葉を失った。

　入店せずに路地を左に曲がって真っすぐ進み、太めの通りを渡った先にある、さらに大きな歓楽街に向かった。大小、さまざまなネオンが光り輝く中、日本のキャバクラそっくりな構えの店があったので入ってみた。

　ロビーに６０歳前後とみられる女性がおり「日本人なんだけど」と声をかけると「飲みは１回、９万ウォン（約９０００円）だよ」と言い、ほほえんだ。その先の“サービス”について聞くと「連れ出しは追加で２０万ウォン（約２万円）」と極めて具体的な話をしてきた。

　“連れだし”とは、店の周囲にあるホテル、モーテルまで女性を連れて行き、そこで売春をすることである。周囲のホテルの関係者からは「廊下にまで大きな声が聞こえ、他の客から『眠れない』と苦情が来るほど激しい夜も少なくない」との証言もあった。

　こちらが熟考するそぶりを見せると、女性は「その場（店内）なら、１０万ウォン（約１万円）だよ」と、何と割引する交渉をしてきた。こちらが値踏みしているとでも思ったのか…。

　店の周辺には、風俗店が軒を連ねている。ならびにある雑居ビルの２階の窓には、コーヒーの絵が描かれたちらしが張られていた。現地の風俗事情通に話を聞くと、店でコーヒーを飲んで、そのまま女の子を連れ出すか、女の子にコーヒーを配達してもらって売春をする風俗だという。置き屋スタイルではない出張スタイルで、流行っている地方の名を取って「亀尾（クミ）式」と呼ぶという。

　太めの通りに戻ると、６０代くらいの男女が手をつなぎ、体を密着させながら、通りに面した雑居ビルの階段へと消えていった。再び、事情通に話を聞くと、その手の店は「焼酎クラブ」と呼ばれているという。熟年男女の出会いの場として提供されており、店が何らかの性サービスをあっせんすることはないが、その先に至るか否かは客の“自由恋愛”の範囲だという。通りには、マッサージの店もあったが、事情通は「あの手の店は通常のマッサージも行いますが、オプションに本番ありのサービスもあり、その際はマッサージ師と違う若い女性が登場するシステム。あの店も、看板を見る限り、その可能性が高い」と指摘した。

　江陵の歓楽街にある店の看板の多くがハングルで書かれており、外国人が一見しただけでは、ただの宿なのか焼き肉屋なのか、風俗店なのかは分かりにくいが、外観を見ただけでそれとなく感じ取れる店はある。キャバクラそっくりの店を仕切る女性は「うちがどういう店か分からない米国の女性は、ホテルとして泊まっていったわよ」と笑い飛ばした。一方で「外国人だと言葉が通じないから、私が一緒にいないとね」などと、外国人客に売春相手の女性をあっせんした場合、問題が発生する可能性も視野に入れ、対策に抜かりがないことを強調した。

　ピョンチャン五輪開幕から１週間が過ぎ、江陵の街中にも慣れた感じで街を歩く外国人の数も増えてきた。そして午後９時を回ったあたりから、そうした外国人に営業活動する女性が駅の前にも現れている。

　連日、熱戦が続くピョンチャン五輪の裏で、“夜の甘い商戦”に向け、余念がない。【村上幸将】