唯一J2から選出された岡山MF矢島慎也(22)は、どん底からはい上がり、リオ行きの切符をつかんだ。幼稚園でサッカーを始め、小学校時代は地元埼玉の強豪北浦和サッカースポーツ少年団に入団。当時監督(現総監督)の吉野弘一さん(61)は、第一印象が強く頭に焼き付いていた。

 「お坊ちゃまだった。背が小さい男の子がボールを抱えていて『ここに入りたい』と。性格は明るくて、少しいじめっ子。常に自分に自信を持っていた」

 練習着は頭の上から足の先まで全身ブランド物。小学生でも美容院で髪をセットしてもらっていた。県選抜の試験があると、試験官の求めるプレーを見抜いて、合格をつかみ取るような要領の良さを持っていた。何でも欲しい物は手に入った幼少期だった。

 しかし、現実は甘くなかった。中学から浦和の下部組織に入団。トップまで順調に昇格するが、プロで出場機会はほとんどなかった。初めての高い壁。吉野さんは「ヤジ(矢島)にとって試合に出られないのはツラいことだったと思う」。矢島が考え抜いた答えは、プロ4年目でのJ2移籍。本人は「覚悟は決まっていた。レッズをもう出ようと。試合に出ることが大事だと思った」。生まれ育った埼玉から、未知の岡山へ飛び出した。

 決心は吉と出た。移籍1年目の昨年は、ベンチスタートが多く「選手として終わったと思った」が、目標があったから毎日居残り練習を続けた。FK、シュート…。努力が実り、J2からリオ五輪代表まで上り詰めた。生まれ変わった矢島のサッカー人生はここから始まる。【小杉舞】

 ◆矢島慎也(やじま・しんや)1994年(平6)1月18日、さいたま市生まれ。北浦和SSSから浦和ジュニアユース、ユースを経て12年にトップ昇格。15年からJ2岡山へ期限付き移籍。J1通算12試合1得点、J2通算57試合11得点。171センチ、67キロ。