目の前で繰り広げられる音楽と踊りに我を忘れた。長年五輪の取材はしているが、実は生で開会式を見るのは初めて。他のどんなイベントよりも壮大で感動的なショー。しかも、会場はブラジルサッカーの聖地マラカナン。50年W杯でウルグアイに敗れ、4人が自殺とショック死した悲劇の競技場だ。式の開始前から気持ちは高ぶっていた。

 今回の式は特別だった。次は20年大会。「東京ならどうする」という思いが常にあった。会場には多くの東京五輪組織委員会や東京都の関係者もいた。テレビの前の視聴者も含め、多くの日本人が同じ思いで見つめていたことだろう。

 式の始めの国歌は、国民的サンバ歌手パウリーニョ・ダ・ヴィオラが歌った。日本だと、演歌の北島三郎か、それともEXILE、AKB? 続いて開会式では恒例の国の歴史を表すパート。大航海時代にポルトガル人が到着し、世界から移民が相次ぐ。広島への原爆投下の時刻に合わせて日系移民が登場する心憎い演出もあった。日本の歴史を振り返るならどこから?

 演出は映画「シティ・オブ・ゴッド」で知られるフェルナンド・メイレレス監督。プロジェクションマッピング多用の見せ方は、記者席からでは分かりにくいものもあったが、さすがに映像は美しかった。東京では誰が演出するのか? これも大きな注目になる。

 そして、過去最多206の国と地域(難民チームを含めて)が参加した入場行進。先頭のギリシャから地元ブラジルまで、2時間近くかかった。初のサッカー専用スタジアムで陸上トラックがないため、中央を歩いて左右に分かれる形。選手たちは自国のスペースで聖火の点火を待った。長い選手は3時間近くも立ったまま。行進前の待ち時間も同様。座り込む選手も多かった。競技を控える選手への負担を考えれば、東京大会は何とかしてほしい。

 行進そのものは開会式の華だし、楽しみにしている選手も多い。それでも「アスリート・ファースト」を掲げるなら、選手への負担は軽くするべきだと思う。64年東京大会の入場行進は45分間だった。97カ国と参加が少ないから当然だが、選手への負担を考えれば、適正な長さだ。追加種目が決まり、さらに肥大化する五輪。時間が増える一方の入場行進も、根本的に考え直す時代が来ているのかもしれない。東京大会を想像しながら開会式を体験し、その思いを強くした。【荻島弘一】