<リオ五輪・男子サッカー:ブラジル1(5PK4)1ドイツ>◇20日◇決勝◇マラカナン競技場

 国歌の大合唱に、身震いが止まらなかった。マラカナンでのサッカー決勝。相手はドイツ。ブラジル人が興奮しないわけがない。記者席でも、メモをとる記者などいない。惜しいシュートに立ち上がると、手にしたビールが飛び散る。完全にサポーター。PK戦では総立ちで歓声とブーイングを繰り返す。あまりの興奮ぶりに、観客のショック死まで心配になった。

 「ブラジルが優勝すれば五輪は成功、優勝を逃せば失敗」と言われていた。サッカーで悲願の金メダルがとれるかどうかがすべて。各会場でのサッカー風な応援も問題になった。「ブラジル人には、五輪精神がない」という声もあった。

 開幕前に聞いたタクシー運転手の青年の言葉を思い出す。「ブラジル人はサッカーばかり。他の競技にもいい選手はいるのに、そこには金を出さない。サッカーに費やす金を少しでも回せば、もっと活躍できるのに」。20日までで金6、銀6、銅6個のメダルで14位。目標としていた「10位以内」は絶望的。それでも、サッカーが勝てばいいのだ。

 日本は違う。今大会、競泳、柔道、体操、レスリングをはじめ11の競技でメダルを獲得した。公的資金も額の違いこそあれ多くの競技に投入されている。五輪を目指そうとする時、子どもたちの選択肢は広い。素晴らしいことだと思う。

 ただ、隣で大声をあげるブラジル人記者を見ながら「日本で、これほど求心力のある五輪競技はない」とも思った。会場には他競技のブラジル人選手も大勢集まっていた(ドイツ人選手もだけど)。国を挙げて応援し、一緒に戦う。残念だが、日本の競技にはない。

 吉田沙保里や内村航平は知られていても、レスリングや体操は決してメジャーな競技ではない。柔道も知名度があるのは井上康生監督だし、競泳にも北島康介はいない。4年に1度、注目されるのはスター選手だけ。五輪のスポーツは、まだまだ知られていない。

 「サッカーボールを抱いて生まれる」というブラジル人。生活の中にサッカーが密着している。「スポーツ文化」が熟成している。少なくとも、彼らの人生におけるスポーツの役割は大きい。4年後、さらにその先へ、日本人とスポーツの関わりはどうなっていくのか。終わることのない聖地マラカナンのお祭り騒ぎを見ながら、そう思った。【荻島弘一】