悲劇のマラソンランナーが、栄光の聖火最終ランナーになった。開会式で聖火台に点火したのは、04年アテネ五輪男子マラソン銅メダリストのバンデルレイ・デリマ氏(46)。サッカーの王様ペレ氏(75)のドタキャンで式当日に正式決定する中、大役を見事に演じた。暴漢に襲われて金メダルを逃しながら笑顔でゴールした「五輪を象徴するブラジル選手」が、12年ぶりに五輪の舞台で輝いた。

 全仏3度優勝の男子テニスのクエルテン氏、96年アトランタ五輪女子バスケットボール銀メダルのマルカリ氏と渡った聖火を、最後に受け取ったのはデリマ氏だった。力強く階段を駆け上がると、聖火台に点火。せり上がった聖火台が太陽を模した金色のオブジェと重なり輝きを放つと、同氏は満足そうに笑った。

 アテネ五輪の男子マラソン、36キロ過ぎまで首位を快走しながら突然の乱入者に襲われたデリマ氏に、突然の朗報が舞い込んだのは開会式直前だった。「名誉なこと」と応じて、正式に決まったのはこの日になってから。それでも、12年前と同じような笑顔だった。

 大会のたびに注目される最終ランナー。当日まで極秘が常だが、今回は違った。サッカーW杯3度優勝の王様ペレ氏が要請があったことを自ら明かしたのだ。

 7月に3度目の結婚をしたペレ氏だが、脊髄の手術を昨年受けてリハビリ中だった。契約するスポンサー問題もあったという。スポンサー側が容認し、腰に負担をかけないようにという大会側の配慮に医師もOKを出した。しかし、前日に辞退。満足に動けない姿を全世界に見せたくなかったのかもしれない。

 大会側は焦ったに違いない。最終ランナーは開会式の主役。12年ロンドン五輪閉会式にも「リオの代表」として出演したペレ氏だけに、代役選びは難航した。地元紙にはクエルテン氏やマルカリ氏の他、開会式会場をホームとするフラメンゴで活躍し「マラカナンの英雄」と呼ばれた元サッカー日本代表監督のジーコ氏の名前も挙がっていた。

 デリマ氏を、ブラジル五輪代表ネイマールが後押しした。3日の会見で「ブラジルのサッカーは1位以外は負け。でも、デリマはアクシデントにあっても堂々とゴールした。本当の勝者だ。彼を尊敬するし、彼のようになりたい」。デリマ氏は、開幕1カ月前の地元紙グロボによる最終走者予想で3位に入っていた。だが5月の聖火リレー初日に走者を務めていたため、異例の再登場となった。

 準備段階でアクシデントが続いた今大会を象徴するような聖火点火式。ブラジルらしく聖火が点灯した。