世界反ドーピング機関(WADA)の調査チームが18日、ロシアのドーピング隠蔽(いんぺい)を国家ぐるみと認定した報告書を公表した。

 報告書は、ロシア・スポーツ省次官が実力や将来性で違反が発覚した選手を選別した上で、選んだ選手の検査結果を操作して違反をもみ消していた実態を明らかにした。スポーツ行政に携わる政府高官が主導的な役割を担っていたことになる。

 ロシアがスポーツを国威発揚のため利用していることが、国ぐるみの異常事態につながった可能性がある。競技の公平性を守るためにドーピング撲滅を目指す国際オリンピック委員会(IOC)は、ロシアの体質を懸念しており、19日の緊急理事会で処分を検討する。

 報告書によると、ロシアでは2011年以降、モスクワの検査所で陽性反応を示した検体の情報は全て、スポーツ省次官に集約される仕組みが確立された。次官が「救済」を指示した検体についてはWADAに「陰性」と虚偽報告し、それ以上調べなかった。こうした検体の多くはメダリストや有望選手のもので、どの検体を「救済」するかは次官がスポーツ界の有力者やコーチに意見を聞いて決めたという。

 少なくとも312検体が「救済」の対象となった一方で、将来性のない選手や海外の選手の陽性検体は「救済」の対象外と切り捨てられ、通常の手続きに沿って検査が続行された。

 この手法は10年バンクーバー冬季五輪でロシアが金メダル3個と低迷したことをきっかけに、不正をしてでも国際競技力を保とうと計画、実行されたとみられる。報告書は「夏季、冬季五輪の大半の競技で、システムの恩恵を受けたロシア選手がいた」と指摘した。

 14年ソチ冬季五輪では、大会前に採取した陰性の尿検体を「クリーン尿バンク」に冷凍保存し、検査所施設の壁に開けた穴を使って大会中に採取された検体とすり替える手口が用いられた。作業は国外の検査員の目が届かない深夜に行われ、検体を保存する容器への細工も確認された。