褒めるのは4年後に持ち越し-。女子48キロ級の近藤亜美(21=三井住友海上)が、日本のメダル第1号となる銅メダルを獲得した。準決勝で敗れたが、3位決定戦では13年世界女王のウランツェツェグ・ムンフバット(モンゴル)に優勢勝ちした。幼少期から鍛え上げてくれたのが、現在は龍谷大で指導に当たる堀田いづみさん(38)。調子に乗りやすい弟子を、厳しくも温かく育てた絆があった。

 決戦前夜、近藤は日本にいる堀田さんに連絡を入れた。「勝てる気しかしません」。自信満々。その強気は長所でもあるが、違う作用を及ぼしたのかも知れない。「欲が邪念となったのかな」と堀田さん。勝てると思ったから慎重になったのか、思い切りの良さが消えた戦いぶりに不安が募った。案の定、準決勝で優勝したパレトに担ぎ技で技ありを奪われ、日本女子最年少の金メダルは消えた。

 世界の頂点を狙えると確信したからこそ、堀田さんは「鼻を完全に折ってきた」と言い、「いづみ先生に褒められたことがない」が近藤の口癖だった。初対面は小4。中高大で日本一となった堀田さんが現役生活を終えた直後、父康さんが指導する大石道場だった。「投げさせて」と練習後に懇願してくる小さな娘に「必ず強くなる」と直感した。わざと投げられることはしなかった。道場の先輩で五輪2連覇の谷本にまで「お前を投げる」と豪語する勝ち気な性格を買い、安易な指導はやめた。

 集中力を持続せず、稽古中にぼうっとしていれば、「出ていけ」と声を飛ばした。堀田さんが監督だった大成中・高(愛知)では、近藤は「金魚のふん」で有名。締め出しを食らうと「すいません、練習やらせてください」としつこかった。休み時間のたび職員室を訪れ、姿が見えないと校内の公衆電話から懇願がきた。「おだてられれば結果を出すけど、常にそうではない。谷底に落ちた時にはい上がる力をつけてほしかった」。厳しい愛情をぶつけ、近藤も受け取っていた。

 3位決定戦、ムンフバットを相手に終了間際に押し込みながら倒して有効。勝ち名乗りを受けると、悔し涙があふれた。「情けない。実力の差がはっきり出た」。金メダルを手に、いの一番に「いづみ先生」のいる京都に報告に行くつもりだった。銅メダルでは恩返しには十分ではない。師匠も当然、「褒められないですね」。何度踏んでも立ち上がる雑草にとっては、はい上がるための試練。4年後の次こそ頂点へ。その時はこう言う。「今度こそ褒めてください」と。【阿部健吾】

 ◆近藤亜美(こんどう・あみ)1995年(平7)5月9日、愛知県生まれ。大成中-大成高-三井住友海上。13年に全国高校総体制覇。14年に世界選手権優勝。14、16年の全日本選抜体重別選手権覇者。得意は払い腰。156センチ、48キロ。