【リオデジャネイロ29日(日本時間30日)=田口潤】競泳男子400メートル個人メドレーの金メダル候補・萩野公介(21=東洋大)が「瀬戸コンプレックス」を克服し、リオデジャネイロ入りした。4分7秒61の日本記録保持者ながら、これまで世界大会では同年代の瀬戸大也(22=JSS毛呂山)に負け続けた。五輪初対決を前に、過去に勝ち続けた優越感を捨てて「ライバル」と認めることで苦手意識を払拭(ふっしょく)。万全の状態を整え、8月6日(同7日)の決戦へ向かう。

 もう逃げない。決戦の地リオの空港に降り立った萩野は、瀬戸に関する質問を避けることなく、笑顔で言い切った。「(400メートル個人メドレーは)大也と競ることになる。そのためにいろいろ準備してきた。大丈夫です」。5月末から日本を離れ、6月中旬から標高2320メートルのスペイン・グラナダで高地合宿を敢行。常に「打倒瀬戸」を考えていた。

 400メートル個人メドレーの日本記録を持つ。13年から日本選手権は4連覇。それでも世界大会は25メートルの短水路を含め、常に瀬戸の後塵(こうじん)を拝している。通算戦績では勝りながら、ここぞの大会で敗れてしまう。「一緒に泳ぎたくない。自分が調子悪いときなどは真面目にやって負けるのは嫌だった」。日本最速男の心の奥底に、瀬戸への苦手意識があった。

 小学3年の初対戦時は25メートル以上の大差で圧勝した。中学2年のジュニアオリンピックで初めて負けるまでは圧倒。その後は勝ち負けを繰り返したが、小学時代から染み付いた優越感のようなものは消えない。「心の底から(瀬戸を)認めたくない気持ちがあった」。そんな「瀬戸コンプレックス」は大一番で心の弱さとなり、弱気、逃げの気持ちにつながり敗因となった。

 平井コーチからは「大也の強さを認めて、どうやったら勝てるか考えろ」と言われ続けた。昨夏に右肘を骨折して欠場した世界選手権。瀬戸の大会連覇の映像は、悔しさから一切見なかった。だが年明けに動画投稿サイト「ユーチューブ」で泳ぎを確認し、「あいつと勝負するぞ」と覚悟を決めた。欧州合宿中も常に隣のレーンに瀬戸を仮想し、最後の自由形100メートルで競り勝つことをイメージしてきた。

 初めてライバルと認めることで苦手意識は消え、「負けられない」から「勝つ」のポジティブな考えに変わった。「この場所にいる幸せをかみしめて全力を尽くしたい。一瞬で終わるすべての瞬間を楽しみたい」。個人3種目を含め計4種目に出場。メンタル面で一皮むけた萩野に、快進撃の予感が漂う。