金藤理絵(27=Jaked)が2分20秒30で、金メダルを獲得した。同種目の金メダルは92年バルセロナ五輪の岩崎恭子以来、24年ぶり。岩崎恭子の金メダル獲得を報じた92年7月29日付紙面を振り返る。

 ◇

 ◇

 ◇

 <バルセロナ五輪:競泳>◇1992年7月27日◇女子200メートル平泳ぎ【バルセロナ28日】「14歳のあんなに小さい子供が、あんなに速いのか」――。競泳史上世界最年少の金メダリストとなった岩崎恭子(静岡・沼津五中2年)のニュースはバルセロナを駆け抜けた。地元紙も破格の扱いだ。あまりにあどけないヒロインの誕生は、バルセロナの人々の心に、またひとつ不思議の国「ハポン」を焼き付けた。

 「東洋の女王」「小さな巨人」。28日付のバルセロナの地元各紙朝刊には、競泳・岩崎の金メダルをたたえる活字が躍り、バルセロナっ子の間でも大きな話題となっている。2紙あるスポーツ専門紙の一つ「エル・ムンド・ディポルティーボ」紙は、競泳コーナーの丸々1ページをさいて「イワサキ 東洋のもう一人の女王」と報じた。女子飛び込みで金メダルを取った中国の13歳の選手に引っかけた見出しだ。男子バスケットボール米代表チームのようなスーパースターを除いて外国人選手としては破格の扱いとなった。

 同紙は「世界新、五輪新が出たきのう(27日)のヒーローは、男子のベテラン、パブロ・モラレス(百メートルバタフライ)と小さな女の子、キョウコ・イワサキだった。この二人がきのうのメダリストたちの中で最も拍手が多かった」と書き出し、ラストスパートのシーンの写真を大きく掲載した。日本人に比べて女性の外見の成熟度が早い一般的スペイン人からみると、まだあどけなさの残る岩崎の快挙がよほど信じられなかったのだろう。記者は素直な驚きを活字にしている。

 「今月21日に14歳になったばかりのキョウコ・イワサキは、女子二百メートル平泳ぎ決勝で記録保持者のアニタ・ノールに勝った。身長150センチちょっとで体重45キロの小さな巨人は、最後の数メートルで、米国の大チャンピオンを抜いただけでなく、実力者、中国のリー・リンをも抑えて勝利した。表彰台の上でイワサキは、笑みと涙を一緒に見せた。それはいたずらをしたばかりの少女のようなあどけない表情だった」。

 もう1紙の「スポルツ」は岩崎の活躍を「世界新とともにもう一人の英雄は、幼女のような、たった14歳の日本選手だった」と書き立て、「五輪新の上、世界歴代2位の記録。そして、競泳金メダリストとしては最年少の記録でもある。92年世界ランク12位のタイムしか出していなかったイワサキを上位候補に挙げる人はだれもいなかったが、完ぺきなゲーム展開、見事な勝利だった」と最大級の賛辞を送った。金メダリストの紹介欄でも詳しい個人プロフィルを掲載した。

 新聞スタンドで岩崎の記事に見入っていたホセ・アルメットさん(27)は「すごい子供だね。ハポンでは、みんなほ乳瓶をくわえるような年ごろからスポーツの英才教育でもしてるのか。スペインの子供たちはとてもこんなことはできないよ」と、ちょっぴり勘違いしながらも感心していた。

 ★「プティット」連呼

 岩崎のニュースはフランスでも大きく取り上げられた。テレビ「A2」の生放送では、アナウンサーが「プティット・ジャポネーズ(ちっちゃなニッポン娘)」を連呼し、日本の放送席の興奮ぶりを大写しにした。仏紙「レキップ」は14歳と7日という年齢で「情け容赦なく勝った」と、世界記録を持つアニタ・ノール(米)を破った驚異の追い上げをたたえた。

 ★静岡の地元紙は大忙し徹夜

 電光掲示板に1着の表示が出ると、記者席ははちの巣をつついたような大騒ぎになった。電話に飛びつき東京の本社に「金だ!金だ!」と怒鳴る光景があった。入れないのが分かっていながら、慌ててプールサイドに駆け寄ろうとして、係員に押し止められる者。写真フィルムをメーンプレスセンターに運ぶため、観客、関係者を突き飛ばしてダッシュし、ひんしゅくをかった社もあった。岩崎の地元静岡の新聞社は、バルセロナ入りした記者一人、カメラマン二人があらかじめ岩崎をマークしていたが、28日付朝刊と同夕刊で岩崎の大特集を展開すると本社から指示が出て、27日夜は一睡もできなかった。