新型コロナウイルスの感染拡大を受け、首都圏を対象とする緊急事態宣言が発効した8日、東京都医師会の尾崎治夫会長(69)が取材に応じた。同宣言が発令されたことで東京オリンピック(五輪)・パラリンピックへの風当たりが一層厳しくなる中、開催を実現するためには「無観客の議論からし直すべきだ」と提言した。

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飲食店の時短要請に比重を置いた緊急事態宣言の内容に尾崎氏は開口一番、「これが昨年11月下旬だったら良かった」と率直に言った。この日の東京都の新規感染者数は前日の過去最多に次ぐ2392人。「第1波と同レベルで人の流れを止めないと(宣言期限の)1カ月後でも1000人を割らないのでは。テレワークも7割ではなく8割を目指すべきだ」と述べた。

政府、東京都、大会組織委員会が昨年12月、東京大会における新型コロナ対策の中間整理をまとめた。「選手のためにも中止は避け、五輪パラは開催すべきだ」と主張した上で、開催都市の医師会会長として観客を入れた「フルスタジアム」を前提とする計画の進め方に危機感を募らせた。

政府などは外国人観客の入国を前向きに検討した上で、今春までに観客の上限規制を設けるか、海外客を入国させるかを判断する。

「たくさん観客を入れて、従来通りの五輪を開催したいとの考えからコロナ対策がスタートしている。順序が違う」と指摘し「選手が安全に競技ができることが最も大事」とした。

実効性を上げるため多くの感染症の専門家から意見を吸い上げ「まず確実に大会を開催できる計画をつくるべきだ。単純に言えば無観客の計画だ」と主張。3、4月まで結論を先送りする中ぶらりんな状態が開催への世論を後退させ、最悪の「中止」に傾かないためにも最低限、開催を担保できる無観客計画を国民や世界へ提示すべきとの考えだ。

中間整理では海外から来るアスリートとその関係者(審判、指導者、トレーナー、練習パートナー、ドクター、パラアスリート介助者ら)へのコロナ対策を比較的、厳重に定めている。出国72時間以内の検査で陰性証明を取得し、さらに日本の到着空港での検査、選手村でも4、5日に1度、PCRや抗原検査を義務づける。厳しい行動管理も課すため選手らの感染リスクは低い。

一方の観客は数が圧倒的に多いため選手らと同等のコロナ対策を施すことは困難。そのため観客の議論は「次のステップだ」と語った。

尾崎氏によると都医師会はボランティアら大会スタッフに対する各種予防接種を検討中。4月には接種を始めなければ間に合わないという。観客の上限規制によってはボランティアの人数変動も予想され、ワクチンの接種準備を整える意味で、観客の有無を決める時期は「3月末が限度だろう」と話した。

緊急事態宣言についても「1カ月ならそう長くない。今より厳しい対策を実行し、ここまでやれば、この数値まで感染者が下がるという科学的根拠を若者に提示すべきだ。それも若者が見るYouTubeなどで流さないと伝わらない」と指摘。「今の中途半端な対策だとなかなか感染者は減らず、世間が有観客の五輪をやろうと思わないのでは」と語った。

3月25日からは聖火リレーがスタートする。観衆が集まる沿道は屋外のため十分な社会的距離が取れていれば「感染の危険は少ない」と話す。ただ警鐘は忘れない。

「聖火リレーの開始で国民のコロナに対する気持ちが緩む可能性はある。開催を確実にしたければ気分的に浮かれたものは一切排除し、コロナ禍の新しい形を徹底してほしい。スポーツマンシップのもと選手が競い合う大会。なぜそれだけを強調しないのか」

今大会は慣例通りの五輪を実施するのは難しいと主張し続けた尾崎氏。「開催するだけで既に『コロナに打ち勝った大会』となる。今回はそれ以外のものを排する覚悟も必要だ」と、開催にこぎつけるため医療関係者の立場から終始、熱く語った。【三須一紀】

◆尾崎治夫(おざき・はるお)1951年(昭26)11月7日、東京都生まれ。77年順天堂大医学部卒。90年東久留米市に、おざき内科循環器科クリニック開設。11年東京都医師会副会長を経て、15年から現職。

※崎は崎の大が立の下の横棒なし