先週、東京オリンピック(五輪)パラリンピック組織委員会から1本の英文メールが届いた。五輪、パラリンピック期間中に泊まる滞在先を調査する英文アンケートだった。どこに泊まるのか、部屋には何人で入るかなどを答えるものだった。

筆者は日本在住で自宅から取材先に通う。宿泊先に「Non Arrangement(手配していない)」という項目があったので、それを選ぶと、今度は、いつから何人でどこに泊まるのかと、選択制方式で聞いてくる。

らちが明かないので、組織委に、自宅から通うのはどう答えればいいのかメールで聞いた。答えは「このメールで回答とさせていただきます」だった。自宅から通うのは、アンケートで想定していないようだった。混乱している感じがした。

アンケートの意図は明確だ。新型コロナウイルス感染対策のため、国内での行動監視に使いたいのだ。しかし、こんな簡易なアンケートで厳格な行動規制など取れるのだろうか。そのアンケートに、すべてを書き込んでくれるとも限らない。

菅首相は二言目には「安全・安心」と言い、「バブルだから」大丈夫だという。「海外からの報道陣はうろうろ取材するが」という問いに、丸川五輪担当大臣は、「絶対にうろうろはさせない」と言う。たぶん、2人ともに、五輪現場を知らずに、お答えになっている。

「バブル」というのは、選手村のことしか考えていない。大会・関係者で約10万人。その内、選手関連で1万5000人。その全員でさえ選手村には入らない。選手村内なら、もちろん「バブル」は可能だが、五輪はバブル以外の関係者の方が多いのだ。

報道陣を例に取る。五輪には、選手村同様にメディア村を採用する大会と、民間の宿泊先をあっせんする大会がある。筆者は、2つの代表的な例として、シドニー五輪でメディア村、ロンドン五輪で市内のホテルに泊まった。

どこに泊まるかは報道陣の自由で、メディア村があっても、宿泊する義務はない。ただ、メディア村があれば、選手村同様に、そこだけは「バブル」が可能かもしれない。しかし、東京五輪は、残念ながらロンドン五輪方式だ。

組織委が報道陣のために100近い民間宿泊先をあっせんしている。もちろん、そこに泊まる義務はない。各自で宿泊先を確保することもできる。そして、そのすべての宿泊先は民間なので、一般の人と普通に接触する。

組織委は、4月30日に、報道陣用の「プレーブック」を明らかにした。その中には、海外から来る報道陣は、入国後、2週間は公共交通機関を使用しないように要請している。民間の宿泊先に泊まって、タクシーにも電車にも乗らない。そんな生活が想像できるだろうか。

だいたい、それをどのように監視するのか。スマホに専用アプリを入れるとしても、数万人の行動を、そのアプリだけで監視できるのか。菅総理は「違反者は国外退去も考えている」という。宿泊先からタクシーに乗っただけで国外退去?

海外から来た報道陣は、記者室や取材ゾーンで、筆者のような国内在住の報道陣とも接触する。国内在住報道陣は、自宅などに帰るため、公共交通機関で、一般の方々と接触する。これでは全くバブルにならない。本当に動線徹底、行動監視を数万人単位で可能なのか。ただ、もし可能ならば、それはそれで怖い社会だとも言えないだろうか。【吉松忠弘】