2021年のスタートは、今や人気、実力ともにトップクラス、その上とってもキュートで親しみやすい、私も大好きな選手から。前回このコラムに出ていただいたのが約2年半前。『今期は絶対A1になりたい!』と言われて有言実行継続中の大山千広(24=福岡)選手にお話をうかがってきましたよ。

--前回の取材からしっかり結果も残されてきて、ご自身で一番、手応えや成長を感じている部分ってどの辺りですか?

大山選手 実は、周りの方にそう言ってもらうほど、自分の中ではすごく変わったとか、成長したって実感があんまりなくって…。

--えっ? そうなんですか?

大山選手 はい。全然ないというか、逆に記念とか行くようになって、上との差をすごく感じるようになったんで…。そういう成長とかっていう感覚が余計ないんですよねぇ。去年、一昨年はその“差”をすごく感じる年でした。

--なんだか意外な答えですけど?

大山選手 もともと、あんまり人よりできなかったので…。スポーツも全然でしたし勉強とかもそうなんで、たぶん『できない』が基準というか、私の中でベースになっちゃってるので、まだまだだなぁと思うことしかないですね。

--そう思いながらも、この成績を取り続けられるってすごいことだと思うんですが?

大山選手 それは単純に舟に乗るのが楽しいし、好きだからだと思います。

--大きなレースに出場される中で、見える景色も少しずつ変わってきているんじゃないですか?

大山選手 そういうのは、すごくありましたね。例えば、一昨年は本当に技術! 特に、ターンの技量の差をすごく感じて、これだけの差をどうしたら埋められるんだろう? ってすごく考えた1年だったんですけど、去年はそれプラスメンタルっていうのをすごく考えさせられました。F2したのもあるんですけど、記念走ってる人たちのメンタルの強さと、モチベーションの高さ! 同じくらいの技術がある人ってA1の中でもたくさんいるんですけど、その中でも記念とかを走ってる人たちの貪欲さとかメンタル的なものをすごく感じましたね。

--F2のお話が出ましたけど、どんな風に切り替えたんですか?

大山選手 かなりショックはショックだったし、出られなくなったレースとかもたくさんあって「あー、もったいないことしたなぁ」って思ったんですけど、この中で勉強できることもたくさんあるんだろうなって思って、割と早めに切り替えましたね。そのF2してからも記念が3つあったので、そこをどう走るかとかすごく勉強になりました。

--デビューされてからいろんなことを越えて来られたと思うんですが、今ご自身ではどんなふうに感じていらっしゃいますか?

大山選手 そうですねぇ。一昨年、記念に行けるようになって、やっとスタートラインだなあって思ったんですよ。でも、そこからまだ結果も出せてないですし、まだあんまりスタートラインから進んでいないような感覚ですね。

--えっ? そうなんですか?

大山選手 やっぱり記念とかですごい差を感じて、ほんとに自分って下手なんだなぁって毎回打ちのめされるんです。でも、私もそういう風になりたい! ってすごく思うし、特に技術面は、舟を向けてからの速さというか…、スピードを持った全速ターンって誰でもできるんで、それを生かしたままのまくりだったり差しとかも…もっとこうなんて言うか、女子戦じゃやってないようなターンをもうちょっとできるようになりたいですね。みんなが走りたくても走れるわけじゃない、すごくいい経験ができてるから、その1個1個を自分の糧にしたいなぁと思って走ってます。

大山千広選手が、ファン投票1位で地元芦屋のG2レディースオールスターに出場します
大山千広選手が、ファン投票1位で地元芦屋のG2レディースオールスターに出場します

--そんな中、(第5回)レディースオールスターは1位で選出されました。

大山選手 正直(去年は)後半の方は休んでましたし、レディースチャンピオンも全然結果出せなくて、記念も駄目だったんで、それでもこんなに応援してくれる人がいるんだなって思うと、こういうネガティブな考え方してちゃ駄目だなって思いましたね。特に、あれだけこう数字で目に見えて出ると、これだけ応援してもらってるんだってグッとくるものがありました。

--ダントツ(2万8049票)でしたもんね。

大山選手 そうですねぇ。でも、自分のこれからの成長とか、たぶんそういう期待とかも込めて入れてもらってる票数だと思うので、その辺りは一緒に背負って頑張りたいなって思いましたね。

--しかも芦屋ですものね。

大山選手 そうですね。芦屋は一番練習させてもらってますし、やっぱり一番好きな場ですね。でも、実はまだ芦屋で優勝したことないですし、私、レディースオールスターの結果が毎回すごく悪いんで、ちょっとそろそろ…と思ったんですけど、気合を入れ過ぎるのはやめて頑張ろう! と思いました。

--それはやっぱりメンタルを考える1年があったからこそですか?

大山選手 そうです。例えば、一昨年のクイーンズクライマックスも初めてちょっとこう舞い上がってたというか、浮足立ってたなって終わった後に気付いたんですよ。どちらかと言えば、いつもは冷静な方なのに終わってみて、何かすごくやらなきゃいけない! って思い過ぎてたなぁって思って。

--背負い過ぎてた?

大山選手 そうかもしれないですね。なんかすごい、いっぱいいっぱいになった節で、楽しくなかったなぁというか…。レースなんでそんな楽しいとか言っちゃ駄目だと思うんですけど、すごくしんどい節だったなぁと思ったんで、それは良くないなって気付きましたね。終わってみて。

--しっかりファンの皆さんの思いに応えようという責任感が強かったんですね?

大山選手 そうなんですけどねぇ。でも、誰もが1位で行って、そういう緊張感とかプレッシャーとかって感じられるものじゃないんで、いい勉強になったなぁと思います。

--では、その経験も踏まえて、芦屋の第5回レディースオールスターに向けてファンの方にメッセージをお願いします。

大山選手 やっぱり1位で呼んでいただいたっていうのはすごくうれしかったし、それが今回芦屋なので、気合入り過ぎるのをちょっとだけ抑えて、あえて抑えてしっかり優勝を目指したいなって思います。

意外なお話も飛び出した今回。大山選手の繊細さ、そして強くあろうとするからこその自分への厳しさがとても格好良くて、まぶしくて。未来の大山選手がもっともっと楽しみになりました。

 
 

--先日、YouTubeで平山選手や峰選手との対談をされていましたけど、トップレベルの選手とのやりとりって、やっぱり刺激になるものですか?

大山選手 すごくなりますね! 例えば、峰さんは、どちらかと言えばすごく自信に満ちあふれてる強気なコメントとかもされますし、自分とはすごく違うというか逆の存在だなぁと思うんですけど、でも、その峰さんもメンタルトレーニングとして、あえて自分を奮い立たせるための言葉だったりするのを知って、もうちょっと私も「私だって勝てる!」と思ってレースに行けるようになりたいなって思いました。

--目標は?

大山選手 グランプリを見てたら、あの18人で走ってみたいなってすごく思いますし、最終的にはSG取りたい! っていうのがありますね。せっかくこの仕事に就いたんですから。

 
 

○…いよいよG2レディースオールスターが、間近に迫ってきました。過去の大会でも人気に推されていた選手が多くそろう中で、注目度が急上昇している選手の登場も目を引きます。

5000番代のニューヒロインでは、山川波乙が最も多い票を集めて出場します。彼女は有言実行でファンの心をわしづかみにしました。20年6月津のヴィーナスシリーズ出場に向けて、同場の公式ツイッターで事実上の勝利宣言。まだ勝利を挙げたこともない、新人選手が発言するのは相当なプレッシャーだったでしょう。しかし、その言葉通り、4日目9Rに4コースから豪快なまくりでデビュー初勝利を勝ち取りました。これほど劇的な水神祭もなかなかありません。

本人が言った「波乙-全-全」は、ツイッターのハッシュタグとして現在も使われているほどの人気ぶり。芦屋でも強烈なスタート攻勢で「波乙-全-全」を見せてくれるかもしれません。【芦屋ボート担当・土居恒久】