大森慶一は人さし指を立ててS級1班ポーズ(撮影・栗田文人)
大森慶一は人さし指を立ててS級1班ポーズ(撮影・栗田文人)

 ヒグマに追い掛けられてS級1班に上り詰めた男がいる。大森慶一選手(36=北海道)だ。

 昨夏、同郷の菊地圭尚選手に勧められて、ファットバイクでの練習を取り入れた。ファットバイクというのは普通の自転車の約3倍(約10センチ)ぐらいある太いタイヤの自転車で、砂浜でも、山道でも、雪道でも走れるすぐれもの。ただし、乗りこなすにはそれなりのパワーが必要なのだそうだ。

 最近、これを練習に取り入れる競輪選手が増え、大森も自身の殻を破るために導入。7月某日も函館近郊の山道を走っていた。川辺でいったん休憩し、再び山道に入って帰る途中、「ガサガサ」という音に後ろを振り返ると、半端でなく大きなヒグマが立っているではないか。その距離約10メートル。慌ててペダルを踏み込んで逃げたが、クマも4輪駆動? で走ってくる。「そりゃ、もう必死でしたよ」。

 かつてスイス・エーグルの世界自転車競技センターに留学し、アテネ五輪候補だったワールドクラスのダッシュで辛うじて逃げ切ったが「逃げても逃げても追い掛けてくる。ホント、怖かった」と、その時は生きた心地がしなかったそうだ。

 だが、このハードトレのかいがあって!? 昨年後期(7~12月)はデビュー以来15年目にして初めてS級1班の競走得点を獲得。7月から1班昇進が決定している。「仲間からは『クマのおかげで1班を取れた』と言われてます」。

 4月上旬の京王閣は準決で敗れたが、近況の動きは悪くない。今後も大森のヒグマパワーに注目だ。【栗田文人】