こんにちは。

 先日、元S級で現在はA級2班の加美山隆行選手(31=宮城)から興味深い話を聞いた。同選手は16年7月に千葉で落車し、脳挫傷、脳内出血という重傷を負ったが、約1カ月後にはレースに復帰。2日目にはまくり勝ちも決め、完全復活も近いと思われていた。だがその後、なぜか不思議な落車が増える。

 「車輪を(他車に)払われた時に瞬間的に対応できなくて、体にギュッと力が入ったまま“ドサッ”という感じの変な落ち方ばかりをしていました」。ウエートトレーニングを強化したり、方々の治療院で体を診てもらったが、これといった原因が分からないまま1年8カ月が過ぎた。

調子が上がってきた加美山隆行
調子が上がってきた加美山隆行

 ようやく答えにたどり着いたのがつい数週間前。「ある治療院で言われたんですが、どうやら(千葉の)落車の影響が右脳に残っていて、極端に言えば2年間左脳だけで走っていたらしいんです」。右脳がアウターマッスル(手足などを動かす筋肉)、左脳がインナーマッスル(体の深いところにある筋肉)と関係しているといわれるが、同選手の場合は落車後は左脳が両方の役目を果たしていた。ただ、瞬間的には脳が混乱して同時に指令が出せず、車輪を払われた時などはインナーマッスルの方が使えなかった。これが「変な落ち方」の原因の1つだったと推測できる。

 右脳が左半身、左脳が右半身をつかさどっていることはよく知られている。このため、現在は日常生活で右目に眼帯、右耳に耳栓をし(左目、左耳だけを使う)、右脳を働かせる努力を日々続けている。その成果か、最近はレースに柔軟さが出てきて、流れに応じて体が動くようになってきたという。「左手首に刺激を与えることでも一時的に右脳が活性化するらしいので、発走直前には手首をたたくようにしています。今度、見てみてください」。

脳の活性化のため、指の動きを目で追う訓練も
脳の活性化のため、指の動きを目で追う訓練も

 順調に回復していけば、近い将来のS級復帰も夢ではない。落車禍や病気から立ち直ろうとしている多くの選手にも思いをはせつつ、今後も加美山の戦いを見守りたい。【栗田文人】