【ヤマコウ・輪界見聞録】

 全プロ記念特有のリラックスムードの検車場でも、いろいろテーマを持ってこの大会に挑む選手がいる。吉田敏洋がそうだ。

 前回の函館G3は、2予敗退だけでなく、最終日選抜戦でも5着に沈んでいる。昨年、最後までグランプリ争いに絡んだとは思えない成績だ。しかしその予兆はあったと私はみる。前半は静岡の日本選手権、名古屋の高松宮記念杯で決勝進出。そして集大成が川崎のサマーナイトフェスティバル決勝。グランプリへ賞金争いをしていた浅井康太の前で先行して優勝に貢献。周囲の雑音をよそに、おとこ気を見せた。

 賛否両論がある中、私はあれで良かったと思っている。あの一戦で敏洋は、タイトルを取ってもらいたいとファンに思わせる選手になった。突出した力がない選手は、周りを巻き込んでチャンスを待たなければいけない。その土壌ができ上がった。しかし、タイトルに手が届きそうになった敏洋は、勝ちを求めて自分のスタイルを見失っていった。その典型が今年の京王閣日本選手権の準決であり、函館G3の最終日だったと思う。

 「自分の軸となる戦法が何のか、もう1度考えたい」との思いから、優秀10Rは竹内雄作と別で、自力で戦うという選択になった。番手戦というのは難しいものだ。敵となるラインのことも考え、前を走る選手の心境も考えなければいけない。「前の選手が先行したから運がいい、後方になったから運が悪い」と考えるのか、それとも自分で運をつかみにいくのかで走りは変わってくる。今回、自力を選択した敏洋が、先行が有力な関東ライン相手にどう立ち回っていくのか興味深い。(日刊スポーツ評論家・山口幸二)