超ド級のエンジンを駆る今村豊(53=山口)が、見事なインさばきで史上2人目のマスターズ完全Vを果たした。53歳10カ月でのG1完全Vは最年長記録を更新した。また、児島では初めての優勝で、これにより全場制覇へあと1場(芦屋)を残すのみとなった。こん身の差しで続いた倉谷和信が2着。3着には熊谷直樹が粘り込んだ。

 今村豊は幾度となく、難関を突破して栄光を手にしてきた。節一で今回のような最高のシチュエーションでさえ、その重圧に耐えることが最大の課題だった。

 優出インタビューの際、記者の質問に猛反発したシーンがあった。「スタートもエンジンが連れていってくれるのでは?」。快パワー機だからこその問い掛けだったが、たしなめるように答えを返した。「ボートレースは、そんな簡単なもんじゃない。どんなエンジンだって、その性能を把握してスタート勘をつかむ努力をしなきゃ駄目。俺は努力しない選手に負ける気はないし、勝つために努力する」。ずっしりと、重みのある言葉だった。

 「勝負では何が起こるか分からない」が口癖だが、パーフェクトなレースで完全Vを遂げるという確信めいたものを感じさせた。まさにその通りの優勝戦だった。メンタルは決して緩まなかった。コンマ07のトップスタート、攻めてきた田頭実への対応…。自分のレースをとことん追求する男の「技」と「業」が、はっきり水面に映し出された。

 表彰式で登壇した時は満面の笑みではなく、複雑なものもにじませた。「うるんでたかな~。今まで児島で優勝できんかったから、ピットに帰るバックでもジーンときてたんよ」。完全Vでボート史を塗り替えながらも、児島初優勝に1人で感激していた。「偉大なるレジェンド」。そんな称号はまだ、今村豊には似合わない。ファンとともに歩むチャレンジャー。生涯一選手として、神の領域に挑戦する。【加藤孝正】

 ◆今村豊(いまむら・ゆたか)1961年(昭36)6月22日、山口県小野田市(現山陽小野田市)生まれ。81年3月、48期生として登録。デビュー戦で初勝利を挙げ、その節に初優出も果たす。84年浜名湖オールスターでSG初Vを飾り、通算7冠。優勝回数はG147回、通算130回。163センチ、50キロ。血液型A。