はじめに―――テニスの発想を逆転して
 今までのテニスレッスンは、根本的に間違っている。すべて外側からテクニックを教え込もうとしてきた。教わる方は懸命に本を読み、コーチの言う通りにやろうとするが、一つ直すと別の欠点がすぐに出てくる。「所詮私は…」と、ラケットを投げ出す人が、いわゆる“テニス人口”の何倍もいたはずだ。

 そもそもテニスはむずかしいから(他人から)教わらなくてはいけない。一生懸命に覚え、練習しなくてはダメなのだ―――といった、律義な考え方が間違いである。

 テニスはスポーツであり、スポーツとは娯楽なのだ。「いい汗をかく」ためにだけ存在する、楽しみのテニスでなければ意味がない。「テニスを楽しむ」という根本的な課題を、多くの真面目な人々は「うまくなるよう努力しなくてはいけないのだ」と錯覚してしまっている。その結果、放っておけばスムーズな運動が出来、自然に上達するものをわざわざ妨害し、努力のしすぎ、教えすぎ、教わりすぎの、「努力公害」が出現する。

 赤ん坊は、「右足出して、次は左足出して」と、一々母親に教えられ、一々考えながら歩くことを覚えるだろうか?テニスだって同じだ。私はハーバード大で心理学を学び、その後東洋思想を研究、その課程で「人間には“自然”にものごとをうまくやれる能力が備わっている」ことを発見した。その本来の能力が発揮されないのは、「心」が妨害作業をするためだ。「うまくやろう」とする心が力みを生み、「ここでミスしたら試合に負けるかも」という不安が、本来のスムーズな筋肉運動を妨げるのだ。

 とすれば、従来の「外側から教え込む」コーチではなく、「各人の内側の能力にスポットを当て、それをいかにストレートに表面に引き出すか」という、内側からのコーチ方法こそ、すべてのスポーツに欠けているのだ。

 私はハーバード大のテニス部のキャプテンを務めていたが、こうした人間の能力の研究を通じて、とりあえずテニスで新しいレッスン理論を試してみたくなった。研究室から飛び出して、テニスのレッスンプロとしてさまざまな実験をしてみた。

 どうしたらテニスに精神集中のスポットを当て、スムーズな運動が出来るのか。どうしたら雑念を追い払い、本来の能力を邪魔させることなく上達することが出来るのか。

 こうしたメカニズムについて記した、私の最初の著書「心で勝つ インナーゲーム・オブ・テニス」は、幸い全米スポーツ界の大反響を呼び、テニス好きのジミィ・カーター氏(元米大統領)からも賛同を得た。

 いわばこれは理論書ともいうべきもので、いまここに書き終えた「インナーテニス」はその“実践版”―――いかに自然にうまくなるかを、実験例を紹介しながらまとめたものだ。

 この続編というべき「インナーテニス」は、こう打ちなさい、ああ振りなさいという技術書ではない。自分のからだと心を知り、そのメカニズムを理解することで、全く新しいテニスの世界が開けるはずだ。読み終えて頂いた瞬間に、すでにあなたがテニスの達人になっているとは思わないが、読むだけで以後のテニスに驚異の成果をもたらすことは確信がある。あなたの内部に存在する障害(心=セルフ1)の存在と処方を、私はさまざまな方法で述べてみた。

 テニスだけでなく、ゴルフ、スキー、サッカー、フットボールと、スポーツ各界で本書を活用されれば、幸せである。

 そして、人生そのものにおいても…。


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