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解説
佐々木長九郎(全日本スキー連盟アドバイザー、学生スキー連盟理事)
北国の子供達のように無心に楽しめたら、 「ああせよ」「こうせよ」という技術指導が、これまでのスキー・レッスンだった。私自身は、こうした指導法が全く誤っていたとは思わないが、考えてみれば教える方も教わる方も、大変な努力である。 一つの欠点を直すために、十の「こうしなさい」という項目を教え、さらに百の「こうしてはいけない」を教えなくてはならない。ところが、北国育ちの私などは、誰にも「こうしなさい」と、教え込まれたことはなかった。 生まれて歩く。歩けるようになったら、すぐに長ぐつではける“つっかけのスキー”をはいた。みようみまねであったかもしれないが、いつの間にか、それこそ雪に育てられて滑れるようになったものだ。 その一つの例だが、その昔、競技スキーのメッカ小樽の子供達は、花園公園の坂や、緑ヶ丘、柄ヶ丘など、丘の斜面に自分だけのジャンプ台を、また木の枝で五つほどの旗門を立てたミニ・コースを作って、「オレは10メートル飛んだぞ!」「オレは5秒で滑った。お前、滑ってみろ」などと、仲間と競り合ったりして、選手への道をめざした。 スキーなんていうのは、“我流”であっても右に左に曲げることが出来、転ばないという自信さえ持てば、上手な選手の滑りをみて簡単にマネ出来るものだ。 こんな中で生まれたのが、アルペンの水上久、斉藤貢、長野の杉山進、群馬の園部勝ら。じゃんぷでは浅木文雄、菊地定夫、札幌五輪のメダリスト、笠谷幸生、青地清二、金野昭次だ。さらに距離では落合力松であり、青森の山本謙一らだ。みんな雪とたわむれながら、楽しみながら、立派に一人前に育った。 理論ではなく、雪から生まれたスキーヤーである。「これら雪国の選手達はアルペンの基礎はかくかくだ」などと、肩をいからせて力説している全日本スキー連盟・基礎スキー部の幹部諸氏に教えてやりたいほどの“力強い、シャープな滑り”を自然に身につけていた。我流の技術そのままで全日本のチャンピオンになった選手もいる。 このように北国の子供はレッスン書も、こわいコーチもいらなかった。なのに都会の大人達は、夏は本屋へ、冬はコーチに。スキーを学び、スキーを教わらなくてはなかなかうまくなれない。 上達への壁に突き当たって、高価な道具を押入れの奥にしまい込んでしまう人も多い。「スキーって、そんなに難しいもんんだろうか。そんなに深刻なもんだろうか」。若い選手達を教える合間に、華やかなゲレンデの人間像を見ながら、ふと不思議に思うことが何度かあったものだ。 そんな疑問に対して、この「インナースキー」は、実に見事な答えを出している。 これまでは、すべて外側から「こうやるのが正しいやり方なんだ」と教え込んできた。ところが、インナースキーでは、そうした外見上の“形”を一切無視している。 私自身、日本代表の選手達のコーチを通じて、試合では技術うんぬんよりも、むしろメンタルな面が大事であることを痛感してきた。緊張し、そわそわする選手よりも、転んでもいいんだ――――と大胆で自由に挑戦する選手の方が、よく伸びたことは事実だ。 本書は、その「自由で、自然な心」に着眼して、あらゆるレベルのスキーヤーに対して「技術ではなく心の側からスキーを見直そう」と呼びかけている。 なにもオリンピック出場を目指すトップクラスだけでなく、やはりビギナーでも「斜面がこわい」「転ぶとみっともない」といった感情が、実際のスキーを束縛するものだ。 緊張しすぎる選手が、何でもない旗門をひっかけて自滅するように、一般おスキーヤーも、ちょっとした不安や自信のなさから、本来、たやすくこなせるコブで転倒する。 逆に、もしこうした不安、恐怖、緊張といった心理が排除され、リラックスした精神状態、つまり「北国の子供の心」になれたなら、人は常にベストの能力をゲレンデで発揮出来ることになりはしないだろうか。 こうしたことは我々コーチの間では、実は常識だった。しかし、「どうすれば理想的な精神状態になれるか」という具体策になると、これまで確かに誰も話さなかった。誰も書かなかった。 インナースキーでは、こうした心のメカニズムと、肉体との関連作業が、まるでプラモデルの部品のように、一つ一つ具体的に提示され、分解されている。 なぜ不安が起きるのか。不安が起きると、なぜ転ぶのか。どうしたら不安がなくなるのか――――。心の動きを分解することで、スキー上達への新しい方法を生み出している。 要するに、「どうしたら北国の子供になれるのか」という、具体的なガイドブックなのだ。 我々コーチサイドからは、選手達の心理把握には確かに画期的な福音書となるが、一般スキーヤーにとっては、上達へのバイパス(近道)となるはずだ。特に壁に当たったスキーヤー、自分に自信のないビギナー、いつまでたっても上達出来ないと悩んでいるスキーヤーには、是非とも一読をすすめたい。 これまでの「外側からのスキーレッスン」に対して、全く新しい局面からスキーに取り組んだ「新理論」といっていい。 心とからだの関連メカニズムは、あらゆるスポーツで最も大切な局面になっており、特に近年では、この問題が各方面で研究され始めている。これまでの、ただ単に「量さえこなせば」という根性論的なスパルタ練習では、世界のトップ競争には太刀打ち出来ない。 同様に、一般スキーヤーも、「より楽しむ」ことにウェートを置く時代になってきた。そうした情勢の中で、「上達への最短距離は真にスキーを楽しむ態度だ」としたこのインナースキーが単なる理論書を越えたスポーツの根源に問いかけているのも興味深い。 二人のアメリカ人の書いた本が、私の故郷の北海道の山奥の情景を思い起こさせ、スキーの原点へ引き戻してくれたのは奇妙で、また愉快でもある。 |
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