「世界一厳しい」とも言われる、JFLへの昇格を懸けた戦いがおもしろい。9月17日、関東サッカーリーグ1部でVONDS市原FC(千葉、以下ボンズ)が初優勝を遂げ、11月の全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(以下、全国地域CL)へ名乗りを上げた。

 千葉・ゼットーエーオリプリスタジアムで行われた後期第8節、勝ち点39で首位のボンズが同38で2位のジョイフル本田つくばFC(茨城、以下ジョイフル)と対戦。上位2チームによる天王山は、台風が西日本に上陸した影響で、降りしきる雨の中での戦いとなった。「負けられない」という強い思い。互いの意地がぶつかり合った試合は、その目まぐるしい攻防に心を奪われた。


関東1部リーグを制して喜ぶVONDS市原の選手たち
関東1部リーグを制して喜ぶVONDS市原の選手たち

■藤本の2ゴールで逆転勝ち


 前半17分、ジョイフルがFKから一瞬のスキを突き、ゴール前のMF中里勇斗が押し込み先制点を挙げた。ボンズもブラジル人FWレナチーニョを軸にジョイフル陣内へと押し込む。同27分、相手ハンドで得たPK。絶好の同点機に、ここまで13ゴールで得点ランクトップに立つ絶対的エースのレナチーニョが右足でシュートを放つが、ジョイフルGK西尾隆がファインセーブで死守した。

 同32分、ボンズはDF斎藤広野からのクロスボールをFW峯勇斗が鮮やかな右足ボレーでたたき込み同点とする。そのわずか1分後、ジョイフルはMF下重優貴のパスからFW池田晃太がゴールへ流し込み、再びリードする。

 負ければ次節の最終戦を残し、自力優勝が消えるボンズ。地元サポーターの声援を受け、後半開始から攻勢に出た。同14分、押し込んだ展開から相手選手が再びハンド。これで得たPKを、今度は主将のMF藤本修司が左足で蹴った。これがGK西尾の逆を突いてゴールへ決まり、2-2。そして同24分、MF棚橋雄介からゴール前左サイドへ出たパスを、再び藤本が左足で冷静に蹴り込み3-2。逆転に成功した。

 攻防は激しさを増す。同35分、両チームの選手の接触を巡り、小競り合いが発生した。両チームの選手が接触した選手の周囲に詰め寄り、激しく言い争う。勝負にかける思いがピッチ上で火花となって散った。

 ここで退場者を出したジョイフルに対し、数的優位に立ったボンズはFWレナチーニョをベンチに下げて同39分、DF小石哲也を投入。5バックにして、ジョイフルの反撃を抑えにかかる。だが10人となったジョイフルも黙っていない。FW池田ら屈強なフィジカルを武器にする選手を目がけ、ロングボールを蹴り込んだ。

 同42分、ボンズはたまらずペナルティーエリア外、ぎりぎりのところでファウルを与える。ジョイフルにとっては願ってもない位置でのFKだった。ゴールが決まれば今節でのボンズの優勝がなくなる。まさしく手に汗握る状況の中、祈るようなベンチにサポーター…。ジョイフルのキッカー、そのシュートはゴール上へと外れた。実質的にはこの瞬間、勝負は決した。インジュリータイムを経て3-2のまま試合終了。主審のホイッスルに、ボンズの選手たちは快哉(かいさい)を叫んだ。


VONDS市原の攻撃の中心、FWレナチーニョ
VONDS市原の攻撃の中心、FWレナチーニョ

■11月の全国地域CLが勝負


 Jリーグに所属するジェフユナイテッド千葉のホームタウンにあるボンズ。2006年以降、ジェフが本拠地を市原臨海競技場(現在のゼットエーオリプリスタジアム)から千葉市のフクダ電子アリーナに移したことによって、11年に市原市サッカー協会を中心にして「おらが町のクラブ」として誕生した。それから6年。手弁当による市民が支えた真の「市民クラブ」が、ついに関東リーグの頂点に立った。

 この日2得点と大活躍の藤本主将は「自分自身もチームも関東リーグに挑戦して4年目で初めて優勝することができ、とてもうれしい」と喜んだ。ジェフユナテッド千葉にも所属した29歳は現在、サッカーをしながらクラブの職員として働く。試合終了直後、スタンドのサポーターの近くまで出向き、優勝を報告した顔は誇らしげだった。

 最終節を残して13勝3分け1敗、44得点14失点で得失点差は30。かつてJ1清水エスパルスの監督も務めたゼムノビッチ監督は「毎試合厳しかった。このリーグは10チームしかないから1回負けると次が難しくなる。我々も(9月3日の流通経済大FC戦に)1回負けて、難しい試合になってから、そこを乗り越えられたのはそれなりだと思いますよ」。その言葉には安堵(あんど)感がにじんだ。

 原稿の冒頭に「世界一厳しい」と書いたが、それはゼムノビッチ監督がこれまでに繰り返し、発してきた言葉である。現場感覚からすれば、それくらいJFL昇格は大変な道のりだと実感している。全国9地区の優勝チームは、毎年11月に行われる全国地域CLへの出場権を手にする。加えて10月の全国社会人選手権(以下、全社)の上位3チーム(地域リーグ優勝チームを除く)も出場権を得る。

 実際にボンズは昨年の関東1部リーグを2位で終え、全国区地域CL進出の望みを全社に懸けたが、準々決勝で延長戦の末に敗れた。その全社は、5日間大会で行われるトーナメント大会。連日の試合となれば、チームコンディションに左右されるところが大きく、少しのミスも許されない。プロなら48時間という試合間隔が設けられるが、高校サッカー同様、そこはアマチュアには当てはまらない。「世界一難しい」という言葉は、そんな過密日程に由来している。


優勝決定の試合終了、喜ぶ選手たち
優勝決定の試合終了、喜ぶ選手たち

■1つも落とせない綱渡り大会


 今回の優勝により来月の全社の結果に関係なく、全国地域CLへと歩を進めた。本当の勝負はこれからの6週間ということだ。その全国地域CLは12チームで争い、1次ラウンドを経て、決勝ラウンドを勝ち抜いた2チームがJFLへ昇格する。つまり1つも落とせない、綱渡りのような試合が続く。

 藤本主将は「やっぱり、このカテゴリーでは気持ちの強さだったり、サッカーにかける思いというのが大きく影響してくると思うので。Jリーグにいるからとか、地域リーグにいるからというのは関係ない。カテゴリーに関係なく、懸ける思いというのはそれぞれのものがあります」と胸の内を明かす。「世界一厳しい戦い」を制するのは、最後は「懸ける思い」ということだ。

 日本国内のカテゴリーで見れば、アマチュアの「5部リーグ」。サッカーとは別に仕事を持ち、決して恵まれていない状況でもひたむきにサッカーに取り組む選手たちがいる。1年を懸けて戦い、負ければ明日がない。そんな刹那的な思い、一生懸命さが伝わるからこそ、こちらも目が離せなくなる。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

サポーターに優勝を報告する藤本主将(右端)
サポーターに優勝を報告する藤本主将(右端)
サポーターと記念撮影に収まるVONDS市原の選手たち
サポーターと記念撮影に収まるVONDS市原の選手たち
VONDS市原の先発メンバー
VONDS市原の先発メンバー