4月1日、また新たな1年が始まった。

 東京ディズニーランドの最寄り駅。日曜の昼、千葉・舞浜駅に降り立つと休日の華やいだムードが充満していた。行き交う人の波。暖かな春の陽光が一段と人の笑顔を輝かせる。その日本最大のテーマパークに隣接する浦安市運動公園陸上競技場で、関東サッカーリーグ1部の開幕戦ブリオベッカ浦安(千葉)-さいたまサッカークラブ(SC、埼玉)戦が行われた。

ブリオベッカ浦安のスタッフ。左から羽中田監督、鈴井ヘッド、伊藤コーチ
ブリオベッカ浦安のスタッフ。左から羽中田監督、鈴井ヘッド、伊藤コーチ

■大事な開幕戦2-1で勝利

 ブリオベッカを率いるのは、車いすの指揮官として知られる羽中田昌監督(53)。2006年に障がい者として初めて日本サッカー協会公認S級ライセンスを取得し、カマタマーレ讃岐(08~09年)、奈良クラブ(12年)、東京23FC(15~17年)で監督としてのとキャリアを重ねた。ブリオベッカで4クラブ目の指揮、新たな1歩を踏み出す。

 ブリオベッカは過去2シーズンを日本サッカーリーグ(JFL)で戦い、16年は11位、17年は15位。今季は関東リーグへ降格となり、来季のJFL復帰を目指してのシーズンだ。昨季から羽中田監督はじめスタッフ、戦うメンバーもガラリと変わり、フレッシュな構成となった。

 試合はホームのブリオベッカが最終ラインから攻撃を組み立て、主導権を握る。押し込む展開となったが、決定機を行かせず前半はスコアレスで終了。ゲームが動いたのは後半だった。

 後半6分、ブリオベッカが中盤でボールを奪うと、そこからショートカウンターへ。MF丸山晃生の短いグラウンダーのパスを縦に走って受けた背番号4、身長185センチ大型FW村岡拓哉が右へドリブルで持ち込み、飛び出してきたGKを抜いて先制ゴールを奪った。

 有料試合(大人で当日1000円)となったこの試合、後半途中にアナウンスされた観衆は「1341人」。一見したところ収容人数2000~3000人の小さな競技場だけに、その占有率は高い。隣りのテーマパークからは風に乗ってさまざまな音楽が聞こえてくる。華やいだムードがこちらにも伝播した。

 1点リードしたブリオベッカはその後も再三にわたり、さいたまSCゴールへと迫る。そして追加点が生まれたのは後半33分、MF坂谷武春がゴール前左サイドから左足でシュート。ゴールライン上でブロックに入った選手をはじき、ボールはインゴールへ飛び込んだ。2-0。歓喜の輪が広がる。

 このまま試合終了かと思われたが後半ロスタイムの49分、ラストワンプレー。フリーキックからさいたまSCのFW小畠俊貴に頭で押し込まれ、1点を返される。ほどなくして試合終了を告げるホイッスルがピッチに鳴り響いた。すんなりとはいかなかったが、大事な初戦を勝利で飾った。羽中田監督は安堵(あんど)の表情を浮かべ、スタッフと握手を交わした。

ブリオベッカ浦安の先発メンバー
ブリオベッカ浦安の先発メンバー

■バルセロナで培った見る目

 「(意図した)サッカーは後半20分くらいまではできた。その後のゲーム体力がまだないな。そこで疲れがきて、(最後に)相手に押し込まれる状況で交代選手も含めて、まだチームをこれから強化していかないといけないところがあるなと思いました」

 最終ラインから丁寧にボールを動かし、相手をはがしながら攻撃を組み立てていく。「選手たちをみて、スタッフと一緒に考えてこういうサッカーになっている」と説明。欧州サッカーのテレビ解説者としても活躍する羽中田監督だけに「バルサとかマンチェスター・シティーとか意識しながら、そういうのは(頭の中の)どこかにあるかな」とも言う。もともとバルセロナを拠点にコーチ修業し、サッカーを観る目を養った。その傍らで支えるのは鈴井智彦ヘッドコーチ(46)。その鈴井ヘッドもまた世界を知る異色の男である。

 東海大サッカー部の出身で、FC琉球、ブラウブリッツ秋田U-18監督、大分トリニータU-18監督などでの指導歴を持つが、かつてはカメラマン、ライターとして羽中田監督と同じくバルセロナを拠点に活躍していた。メディアとしてピッチサイドから世界一流のプレーを見続け、サッカー眼に磨きをかけた。バルセロナ在住時から羽中田監督とはサッカーを論じ合った仲。羽中田監督は「自分の頭の中をすごく理解してやってくれる。やっぱり(バルセロナで)同じものを見てきたからというのはあります」と厚い信頼を口にする。同じイメージを共有する、まさしく“バルセロナ脳”にその未来は託されている。

 JFL復帰という命題を掲げるブリオベッカは、プレシーズンを長めに取りシーズン開幕に向けて準備してきた。今季の関東リーグは今までにない「戦国時代」を迎えている。同じJFLから降格してきた栃木ウーヴァFCは再昇格へ19人もの新戦力が加わり、補強が進んだ。ブラジル人FWレナチーニョを擁するVONDS市原FCは昨季のJFL昇格を最後の最後に逃し、捲土重来を期すシーズンだ。元日本代表DF岩政大樹の所属する東京ユナイテッドFCは、名古屋グランパスでプレーしていたMF田鍋陵太が加入するなど大型補強を敢行。2シーズン前の覇者・東京23FCには、ヴァンフォーレ甲府などで活躍した43歳のベテランDF土屋征夫が加入し、上を目指す意識は高まっている。J1から数えて「5部」のアマチュアリーグとは思えない陣容である。これもサッカーが日本に文化として根付きつつある結果であろう。

ブリオベッカ浦安-さいたまSC戦の一コマ
ブリオベッカ浦安-さいたまSC戦の一コマ

■積み上げなくして昇格なし

 関東サッカーリーグ1部は、全10チームによる前期、後期各9節(計18試合)の戦いが9月23日までの半年間に及ぶ。さらにJFL昇格のかかる全国社会人大会、全国地域サッカーチャンピオンズリーグへと続く。プロリーグにはない連日の連戦、1つの敗戦が命取りともなる厳しい道のりである。最終的にJFL昇格が決まるのは11月下旬、もう冬支度の季節である。

 羽中田監督は「まだまだウチは弱いですよ。これまでの(自分の)経験からみても、強いチームにはなっていない。課題がたくさんあって、1試合1試合を戦い、結果を残しながら強くなっていかなきゃいけない。その積み上げなくしてJFL昇格はないと思っています」。決意に満ちた口調でそう話した後に、少し楽しげにこうも話した。

 「まだまだ弱いからたくさんやることがあるけど、それが仕事であり、楽しいこと。そんなこと、今日の開幕戦で感じましたね」

 長いシーズン、山あり谷あり。まさに旅路である。ライバルがいるからこその苦難もある。だが、それらがまた成長の糧となっていくだろう。季節の移り変わりとともに、チームもどう変化していくのか。個性的なクラブが揃う関東にあって“夢と魔法の国”舞浜から航海を始めたブリオベッカ、その戦いぶりにも注目したい。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)