サッカーの祭典、ワールドカップ(W杯)が花盛りである。国が変わればサッカーのスタイルも異なる。世界の戦術を4年に一度、堪能できる絶好の機会である。

 そんなW杯同様、昨今の高校生のスタイルもいろいろである。ここ数年、右肩上がりの勢いで神奈川県の強豪校へと成長しているのが東海大相模だ。その戦術は、素早いグラウンダーのパス交換を特長としたポゼッションサッカー。昨年のインターハイ予選で初めて神奈川を制すと、神奈川県1部リーグ(K1)も制した。今季は春の関東大会県予選でも優勝している。

 選手個人に目を移しても、昨年のチームからは左サイドバックの山口竜弥がガンバ大阪へ入団。今年のチームからは司令塔役となるMF中山陸(3年)が、来季のJ2ヴァンフォーレ甲府入りが既に決まっている。2年連続でのJリーガー誕生である。育成の成果と同時に試合の結果もついてきた。まさに飛ぶ鳥落とす勢いのチームである。

PKを決める東海大相模MF中山
PKを決める東海大相模MF中山

■互換性に優れた集団

 6月16日のインターハイ神奈川県予選準決勝、東海大相模は2年連続の全国切符をかけ、三浦学苑と戦った。ボールを保持して押し込む東海大相模に対し、三浦学苑は中盤から激しいプレスを仕掛け、ボールを奪えば、攻撃陣が素早く連動し、ゴールを急襲する。見応えのある好ゲームとなった。

 東海大相模は前半17分、左サイドをドリブルで突破され、ゴール前への折り返しを押し込まれて先取点を奪われる。さらに6分後、右コーナーキックからのこぼれ球をたたき込まれ、2点目を奪われた。

 2点を追う後半、パスワークのテンポを上げて三浦学苑を自陣に釘付けにし、攻め立てる。ワンタッチ、ツータッチの細かく速いパス交換。東海大相模は中盤から前の攻撃陣に大柄な選手がいない。総じて170センチ前後。俊敏性と互換性に優れたポリバレントな集団である。

 足元の正確な技術とポジションチェンジで相手を揺さぶりにかかる。サイドから大きなクロスボールが入ることはない。常にグラウンダーボールで横へ、斜め前へ、ショートパスが入ると同時に連動していく。加えてドリブルである。司令塔の中山が時折、立体的なパス供給で彩りをつけるが、あくまでベースは地上戦にある。

 後半18分にPKから中山がゴールを決め、あと1点と追いすがったが、同点ゴールまでは生まれなかった。終盤となれば定石となるパワープレーもない。最後まで自らの美学に沿ったポゼッションサッカーで戦い抜き、無念の試合終了のホイッスルを聞いた。

 有馬信二監督は「追いかけなきゃいけない展開となり、心理的な面で冷静さを欠いた。研究されちゃってるし、個で突破しようとなると難しくなる。もっとタッチ数を少なくするとか、コンビネーションをつかったりする部分を強化しないと、点を取るにおいが出てこない」と言葉に無念さをにじませた。

全国切符を逃し、悔しそうな有馬監督(右)と選手たち
全国切符を逃し、悔しそうな有馬監督(右)と選手たち

■200番目からの出発

 東海大相模と言えば、野球部に柔道部と言わずと知れた全国屈指のスポーツ名門校である。その一方でサッカー部は弱小チームだった。2011年、有馬監督が東海大五(現在は東海大付属福岡)から転任。「当時、神奈川で203チームあったんですけど200番目くらいだった」と笑う。そこから8年目、ここに来てようやく花開いた。

 その有馬監督こだわりのポゼッションサッカー。その経緯は今から15年以上も前にさかのぼる。

 「ACミランにいたリカルドというコーチが12カ月間、(東海)大五に来た。やっぱりサッカーってこれだなと。1対1のドリブルがありーの、2対1の数的優位をつくりながらポゼッション、ボールを動かしながら数位的優位をつくる。相手の逆を取りながら3人目、4人目の動きをというトレーニングばかりだった。『あっ、これ俺と一緒だな』と。自分も高校時代からそういう選手だったんで。つないで、つないで、ドリブル使いながら、相手幻惑しながら。そういうのが大好きだった」

 そこで有馬監督はこのチャンスを逃すまい、と猛アプローチ。志願の“弟子入り”だった。

 「最初は(リカルドコーチから)俺のトレーニング見るなとか、メモるなとか言われてたんですけど、2人で焼き鳥食いに行って。だんだん『お前は全国に行けるぞ』って言われて。心酔して、いろいろ教えてもらった」

 東海大相模は2013年に人工芝グラウンドが完成し、強化が進んだ。現在は部員約230人の大所帯。それでも練習場はラグビー部との半面ずつとあって、Aチームは4分の1コートでのトレーニングとなる。そこで行われるのは徹底したポゼッション練習だ。

 「ほとんど3タッチアンダー、2タッチアンダーなので、判断速く、パススピードも速く。もっともっとできるんですけどね。外、中、外、中、斜めのパス。(相手守備ブロックを避けて)Uの字でボールを回すのでなく、回しながら逆に入れて、斜め、斜めと入れて、そういう形を常に練習からやっています」

■自ら考え取り組む練習

 実際にプレーする選手もポゼッションサッカーには手応えをつかんでいる。有馬監督の息子で主将のMF有馬和希選手(3年)は「蹴らずにどれだけつなげるか、やっていて楽しい。リズムの変化つけるのはどうすればいいのか、練習ではタッチ数を制限している。監督は大声で指示することなく、こうやった方がいいとか、自分たちで考えて、という感じです。(昨年の全国大会では)前橋育英とやってもつなげたので自信になった」と言う。

 その指導は押しつけでなく、ヒントを与えるものばかり。選手が「楽しい」と主体的に取り組むことこそ、育成の大事な要素なのだろう。有馬監督と同じく8年目になる増子渉部長は「なかなか結果が出なくても、監督は信念を曲げなかった。ぶれずにつなぐサッカーをやってきた、それがウチの強み。育成を考えてのことです」と胸を張った。

 2010年W杯南アフリカ大会を取材し、スペインのポゼッションサッカーに目を見張った。その試合後のミックスゾーン。シャビ、イニエスタはテレビで見るよりも小さく、細かった。屈強な肉体がなくても、技術とアイデアで渡り合える。そんなサッカーのエッセンスに感じ入ったものだった。

 今回の東海大相模に限ったことではないが、「育成」という大義のもと、日本のユース世代にはいろんな未来へのタネが蒔かれている。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム「サカバカ日誌」)