大学サッカーにはさまざまなタレントがいる。現在行われているトゥーロン国際大会には、U-22日本代表として流通経済大GKオビ・パウエルオビンナ(4年)、筑波大MF三笘薫(4年)、順天堂大FW旗手怜央(4年)、大阪体育大DF田中駿汰(4年)が参加。南米選手権(6月14日開幕・ブラジル)に臨む日本代表には法政大FW上田綺世(3年)が選出されている。

どの選手も来年の東京オリンピックに絡んできそうな注目の選手だが、代表選手以外にもおもしろい選手は大学サッカー界にはゴロゴロいる。中でも注目している1人が、来季の川崎フロンターレ入団が内定している桐蔭横浜大のMFイサカ・ゼイン(4年)だ。

桐蔭横浜大のイサカ
桐蔭横浜大のイサカ

■誕生日に2得点1アシスト

神奈川・桐光学園時代では、ジュビロ磐田に所属でU-22日本代表FWとして活躍する小川航基と同期。今から4年前のプリンスリーグ関東では、エース小川が代表の活動で不在の中、名門・東京ヴェルディユースを相手にハットトリックを決めたプレーを目の当たりにし、度肝を抜かれた。

ガーナ人の父と日本人の母を持つ。サイドアタッカーとしてスピードが売りだが、加えて跳躍力もすごい。平均的な174センチの身長なのに、180センチを超える大柄な選手にもヘディングで競り勝ってしまう。圧倒的な存在感を放っていた。ただ世代別代表などの経歴はなく、高校卒業後はプロへと進まず大学サッカーを選択した。そして研鑽(さん)を積み、来季のJリーグ王者への入団を手にしている。

5月29日、関東大学1部リーグ、桐蔭横浜大-専修大(三ッ沢公園陸上競技場)を取材した。くしくもイサカの誕生日だった。ここでも圧倒的な存在感を見せつけた。

4-4-2の右MFに入ると、豊富な運動量を生かして攻守にわたってプレー。前半に右足のアウトサイドを使った巧みなスルーパスで、チームの2点目をアシストした。

後半には相手ゴール前へ出た長いパスに自陣から一気に走り込み、飛び出してきたGKより先にボールに触って押し込んだ。さらにCKのチャンスでは相手マークをかいくぐってニアサイドへと走り込み、打点の高いヘディングシュートをたたき込んだ。

終わってみれば2得点1アシストという大活躍。チームも4-0と快勝し、自らの22歳の誕生日に花を添えた。

イサカは「点を取ってやろうと思っていたので。でももう1点、2点取っていかないといけない。もっと圧倒的な存在感を放つためにはハットトリックをしていくというのは、Jリーグに内定しているヤツらの部分だと思うので」と、どこまでも貪欲だった。

高校時代も大きな可能性を秘めた選手だったが、大学サッカーを経てイサカは確実に成長したようだ。体は厚みを増し、持ち前のスピード、パワーの出力はより大きくなった。だが、それ以上にサッカー選手としての幅が広がったように映った。

イサカは「自分の良さの部分は続けてきて、悪い部分というか判断力だったり、基礎技術のところは磨くようにしました。高校時代は身体能力の部分ばかり使い、おろそかになった部分もあった。また大学で磨き直すじゃないですけど、やってきました」。

インタビューに答えるイサカ
インタビューに答えるイサカ

■長生きするための「整理」

具体的に何が成長したのだろうか。桐蔭横浜大の安武亨監督が言う。「ボールを大事にできるし、大学に入って飛躍的に守備が伸びた。守備について言えば、プレスバックを絶対にサボらない。あの守備はかなりのレベルにある」。

桐蔭横浜大というチーム自体、誰もが献身的にボールを追う。まさにボール狩りの様相である。チームが大事にしているのは「攻守の切り替え」だ。どこのチームも口にする戦術上の決まり文句であるが、その切り替えの速さは格別だった。

特にイサカの上下動は“半端ない”。ゴール裏でカメラを構え、ファインダー越しにその姿を追うと一目瞭然。ゴール前まで攻め込みながら相手ボールへと攻守が切り替わると、こちらにクルリと背を向け、背番号8がどんどん小さくなり、自陣へと遠ざかっていく。

「切り替えの遅い選手は使わない。とにかく攻から守への切り替えはかなり言っています」とは、安武監督の弁である。

続けて、こうも話した。

「大学になると大人になるので。自分で考えて何が必要か、自分の判断が求められる。自分で気付けばモノになる。無理に私が押しつけてあれをやれ、これをやれよりも、自分で思ったことをしっかりやれるように。自分に何が足りなくて、何が必要か、言われなくても分かっているので、そこの部分をちょと手助けしてあげればと思っています」

大学を経由してのプロ入り。一見、遠回りに見えるが“急がば回れ”なのだと思う。

「サッカーを整理してからプロに行った方が“長生き”するんじゃないかと思っています」

そう話した安武監督自身、サンフレッチェ広島ユースからトップチームに昇格したが、プロを2年経験(J1で2試合出場、DF)した後、桐蔭横浜大に進んだという経歴の持ち主。自らの経験に裏打ちされた教訓なのだろう。

サッカーに限らず、大学とは社会へ飛び出す前の大事な準備期間「モラトリアム」である。知識を高め、価値観やアイデンティティー(自分らしさ、個性)を確立し、その先を生き抜くために自分を磨く。そんな環境に身を置いたことで、イサカは進化したのだろう。

そんな思いを抱いたところで、桐蔭横浜大と対戦した専修大の高崎康嗣(やすし)監督の話は興味深かった。

高崎監督は、かつて川崎Fのアカデミーで長年にわたり指導してきた育成のスペシャリスト。A代表に選出された三好康児(横浜Fマリノス)、板倉滉(フローニンゲン)、久保建英(FC東京)をはじめ、U-22代表の田中碧(川崎F)、三笘といった多くのトップ選手に関わった人物である。サッカーを教える上で、子どもも大人も伝えるべきことは同じだという。

■選手の成長促す「ジリツ」

成長する選手に共通点ってありますか? そう問うと、すかさず「あります、ジリツです」。

ここで言う「ジリツ」とは自立と自律である。

「自分と向き合って、立つ(自立)というのはそうですし、律する(自律)というのもそうです。2つのジリツをもって、自分を高められる。律しないと向き合えないし、自分でやろうとしないと無理ですし、向上心、追求心、野心というか、とにかくうまくなりたい、もっとやっていきたい。とにかく自分でこうやっていくんだという。結果、それを追求していくことがサッカー人として(成長する)唯一の近道かな。だから伸びている子は間違いなく自分でこれをやるんだ、って突き進んでいくと思います。そういう子は間違いなく伸びています」

そう話した上で、サッカーには必要不可欠な思考力について触れた。

「考える力があるから、ちょっと刺激を与えたらどんどん変化します。柔軟で伸びる時につついてあげるんですよ。今日やったことで、次の日は違う人間になっている」

対話型である。相手に問いかけ、考えを導き出す。すると、しゃべった当人が自らのプレーについて気づくのだという。

「なるほど、って思ってくれたら脳は動きだす。頭の汗が半端ないです。そういうのを大事にしてやっていくと、20歳くらいから急激に変わります」

サッカーの成長って20歳からそんなに伸びるものですか? 率直な疑問をぶつけた。

「伸びますよ。年齢関係ないって思っている。僕は(J3のグルージャ)盛岡でトレーニングやりましたけど、どんどん伸びますよ。フロンターレで見たって、ずっと伸びていますもん。中村憲剛とか大島僚太にしても。試合に出ている選手は毎日、成長が見えますよ。そういうの間近で見てきましたから。あとは指導の仕方だと思います。大人だから、とかでなくて。伸びる、伸ばしたい。その思いと、彼らを向き合わせる。そことの向き合いで、必ず変えられると思います」

6月の国際親善試合に臨む日本代表に目を移せば、ベガルタ仙台GKシュミット・ダニエル(中央大)、ガラタサライDF長友佑都(明治大)FC東京DF室屋成(明治大)、ゲンクMF伊東純也(神奈川大)、川崎F・MF守田英正(流通経済大)、FC東京FW永井謙佑(福岡大)ら大学経由組は27選手中6人と意外に多い。

早熟の選手が何かと目立つ昨今の日本サッカー界だが、大学サッカーという日本特有の「ブカツ文化」も捨てたもんじゃない。“遅咲き”の選手からも目が離せない。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)