ベルギーリーグの全クラブを一通り見た。久保裕也(1部ヘント)や森岡亮太、坂井大将(2部テュビズ)という代表チームで一緒に戦った選手たちが活躍してくれるのを見守りながら、欧州の5大リーグ(プレミアリーグ、セリエA、リーガ・エスパニョーラ、ブンデスリーガ、リーグアン)に選手を供給する国のリーグのレベルを把握したいと思っているからだ。

 そしてなぜ若い選手が次から次へと輩出され、代表チームを過去、世界ランク1位に押し上げた要因は何なのか。リーグのレベル、育成環境、指導者、練習内容、ここ(1部シントトロイデンのコーチ)にいるうちにたくさんの刺激を受け、気づいたことはご紹介していきたい。


■可能性のある16歳は飛び級で指導


 まずは、若手選手の育成環境。人口は少ないが、教育水準の高いベルギーは、学校や勉強をおろそかにしない。チームでのしつけや教育もコーチはうるさい。もちろん16歳でプロになれる選手もいるが、大半は学校に通いながらクラブのアカデミーに通う。私の担当しているチームにも16歳がいる。彼らは23歳以下のこのチームで全てのメニューを一緒にこなす。

 午前の練習に来られないときは、夕方のU-19(19歳以下)の練習に出る。セカンドチームの試合に出場できない、まだ試合数や経験が足りないとなれば、すぐに電話一本でU-19の試合に出す。セカンドチームもそうだが、コンビネーションやチームとしての成熟などは、トップチームだけの話。一緒に練習してないから、などという理由は全く存在しない。その割り切り方は、選手個人の成長に全ての優先順位が凝縮されている、と思う。

 日本のアカデミーに例えれば、16歳のユースや高校1年生が、U-23のセカンドチームに入り、日々の練習や試合をこなす感じだ。FC東京の久保建英くんがそうだが、彼は彼だからという理由だろう。こちらはシステムとして、可能性のある16歳はできるだけ上に上げて練習をさせる。

 彼らが今後どうなるかは分からないが、毎日、このテンションで削り合う練習をしていれば、たくましく成長するだろうな、という感じは確実にする。16歳だから仕方ないよね、というフォローはメンタル面だけだ。ここは大事にしている。しかしテクニック、フィジカルコンタクト、戦術面などは全く特別扱いがない。ボールを奪いに深いタックルを受けても、先輩に削られても(まず先輩後輩がない)、ケロッとしている。そのプレッシャーの中で、若い選手が成長するのだ。


■投資、育成、回収のサイクルを確立


 16歳から同年代と練習し、能力のある選手は簡単にプレーできてしまう4年間と、16歳から自分よりも体の大きい、強くて早い選手たちと一緒に練習や試合をこなす4年間。この差が、20歳になった時に大きく出てくるのだと確信する。

 毎週のリーグ戦で対戦相手にも、こいつやるなあ、と感じる選手がいたりする。すると決まって、あの選手は、18歳だけどもう2億の値が付いている、ビッグクラブが殺到している、となる。ベルギーの一番の特徴は、若い選手に投資をする金額がかなり高額だということだ。若手の国内移籍に2億、3億円と相場が高い。なぜか? またその金額の10倍で5大リーグに売れる可能性があるからである。

 アンデルレヒトは、ルカク(現在はマンチェスター・ユナイテッド所属)を破格の金額で売ってから、育成環境に本格的に力を入れ、若くして有望な選手を買い(投資して)、自分のクラブで育て、高く売る(回収する)、このサイクルを確立した。選手を売った利益でクラブも資金が増え、トップチームの強化に充当し、施設整備にお金をかけている。1人10億で売れればすごいことなのだ。例えばJ2でレギュラーを取っている10代の選手や21、22歳は、すぐにJ1のビッグクラブが買い、自クラブで、使い、育て、欧州に高く売る。これを意図的に戦略的にできるようになった時、日本も選手供給国として世界に認められる日が来ると思う。


■日本と違うインサイドキックの距離


 最後に技術の話。個人の技術は日本と変わらない。もしかしたら日本の選手の方がうまいかもしれない。でもずっと日本代表のアンダー代表を見て、日本の選手の育成環境を見てきたが、こちらで何が違うといえば、一番はキックの質。重くて少し大きく感じるボールを毎日蹴り込んでいる。パスのトレーニングやポゼッションを通じて感じるのは、正確に蹴れるインサイドキックの距離が、日本と5メートルは違うと思う。もちろん個人差があり、できる子もできない子もいるが、インサイドキックをきちんと蹴り込んだ時の音が違う。小学生の練習でもかなり距離の長いパスのトレーニングをしているのが印象的だった。

 こちらですぐに自分が指導に取り入れたのは、体の重心をしっかり蹴り足に載せないと強いボールを蹴れない、ということ。軸足はいうまでもなく大事だが、蹴り足もきちんと足首を固定し、力を伝えないとボールが飛ばない。だから動きながらパスをする時にバランスが取れないときちんと蹴れない。だから筋力も必要だし、日々、動きながらプレーしてないと試合で使えるキックにならない、ということ。パススピードは近年ずっと日本で言われてきていたが、毎日の環境で蹴れないと届かない、ことを自覚させる必要があると思っている。

 ポゼッションやパス&コントロールのトレーニングでは、日本よりグリッドを少し大きくしている。それでもできるようになれば、この数メートルの差が、大きな差を生むのだと思っている。

 次回はポゼッションについての考察をしてみたい。

【霜田正浩】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボールの真実」)

ロメル・ルカク(手前、2014年7月5日=撮影PIKO)
ロメル・ルカク(手前、2014年7月5日=撮影PIKO)
アンデルレヒトの育成専用の屋内練習場。選手を売却した利益で新たな育成環境に投資している
アンデルレヒトの育成専用の屋内練習場。選手を売却した利益で新たな育成環境に投資している